特別縁故者による相続財産の取得手続き

家事|相続|特別縁故者|利益対立|特別縁故者の経済的利益と被相続人の推定的意思|相続の基本原則|具体的手続き

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文・判例

質問:

私は、ある男性と長年同居し、役所に婚姻届を提出してはいないのですが、夫婦として生活していました。ところが、同居を開始して10年程が経過した頃、夫が肝臓がんを患ってしまいました。私は、3年程の間、夫とともに、闘病生活を送ってきましたが、肝臓がんが発覚した時点で既に病状が大分進行していたこともあって、この春、夫は亡くなってしまいました。

私たち夫婦は、夫の持ち家を住まいとしていたのですが、私は、その家を夫から相続して、住み続けることができるのでしょうか。恥ずかしながら、私に収入はなく、その家に住むことができないとなると、路頭に迷うこととなってしまいますので、大変困っております。

夫からは、遺言書を作って、私に自身の持ち家を譲りたい、との話もあったのですが、私は、縁起でもないと思い、これを固辞いたしましたので、遺言書も残っておりません。また、私たち夫婦の間に子はなく、夫は、両親を既に亡くし、兄弟姉妹もおらず、私との同居を開始するまで天涯孤独の身でした。

回答:

婚姻届が提出されていない以上、相談者様は、法律上の配偶者とはいえず、相続人には当たりません。ただ、ご主人には、お子さんやご両親、ご兄妹姉妹がおらず、法定相続人がいない場合となります。法定相続人がいない場合は、相続人がないことを確定させるために相続財産清算人を選任し、特別縁故者に対する財産分与という手続きで被相続人の財産を承継する手続きがあります。

相談者様は、10数年の長きに亘って、ご主人と同居し、夫婦として共同生活を送られていたということですので、内縁の妻として特別縁故者に当たり、ご主人の持ち家等の相続財産の分与を受けられるものと考えられます。

法的な手続きとしては、まずは、相続財産清算人の選任の申立てを行い、相続人がいないことを確定させた上で、特別縁故者に対する相続財産の分与の申立てを行うこととなります。特別縁故者に対する相続財産の分与の申立ては、相続人がいないことが確定した後3か月以内に行う必要がありますので、この点、ご注意ください。

そして、裁判所において、被相続人の相続財産を分与するとの審判がなされ、これが確定すると、被相続人の相続財産の分与を受ける権利が形成されますので、相談者様は、ご主人の持ち家の名義をご自身に変更して、そのお家にお住まいになり続けることができるようになります。

特別縁故者に関する関連事例集参照。

解説:

1 相続の基本原則

そもそも、相続とは、ある人(被相続人)が死亡したときにその人の財産上の権利義務(遺産)を特定の人が引き継ぐことをいい、その人の死亡によって開始されます(民法882条)。

そして、遺言書が残されていない限り、原則として、民法で定められた法定相続人が遺産を引き継ぎ、法定相続人が数名の場合は共同相続といい民法で定められた法定相続分に従い、被相続人の財産上の権利義務を引き継ぐことになります。ただし、遺産分割協議を行い、全ての法定相続人が合意するのであれば、法定相続分と異なる割合によって被相続人の財産上の権利義務を引き継ぐことも可能です(同法907条1項)。

この点、民法は、法定相続人について、配偶者は常に相続人となるとした上で(同法890条)、第1順位の相続人を子とし(同法887条1項)、第2順位の相続人を直系尊属(父母や祖父母)とし(同法889条1項1号)、第3順位の相続人を兄弟姉妹としています(同項2号)。また、法定相続分については、配偶者のみが法定相続人である場合は、配偶者が被相続人の財産上の権利義務の全部を引き継ぎ、配偶者と子が法定相続人である場合は、配偶者が2分の1、子供(2人以上のときは、その全員で)が2分の1の割合で被相続人の財産上の権利義務を引き継ぎ(同法900条1号)、配偶者と直系尊属が法定相続人である場合は、配偶者が3分の2、直系尊属が(2人以上のときは、全員で)3分の1の割合で被相続人の財産上の権利義務を引き継ぎ(同法2号)、配偶者と兄弟姉妹が法定相続人である場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹(2人以上のときは、全員で)4分の1の割合で被相続人の財産上の権利義務を引き継ぐとしています。なお、子、直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いるときは、原則として均等に分けることとなります(同条4号)。

ここでいう配偶者とは、市区町村役場に婚姻届を提出して受理された者を指しますので、婚姻届が市区町村役場提出されていない以上、内縁関係にあったとしても相談者様は、ここでいう配偶者には当たりません。

ご相談の場合は、亡くなった方には上記の法定相続人はいないということですから相続人が存在しない場合ということになり、特別縁故者への相続財産の分与が考えられます。

2 特別縁故者への相続財産の分与

法定相続人が存在しない場合は、被相続人の財産上の権利である相続財産は、最終的には、国庫に帰属することになりますが(民法959条)、裁判所の判断により、国庫に帰属する運命にある相続財産の全部又は一部が被相続人との間に特別の縁故関係があったと認められる者(特別縁故者)に分与されることがあります(同法958条の2第1項)。

特別縁故者として認められるのは、「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者」(同項)です。相談者様のような、市区町村役場に婚姻届を提出していないものの、事実上、夫婦として生活していた内縁の夫や妻は、「被相続人と生計を同じくしていた者」として、特別縁故者に当たります。東京家裁昭和38年10月7日審判でも、被相続人と長年に亘って共同生活を送ってきた内縁の妻を特別縁故者と認め、同人に対して相続財産を分与するのが相当との判断を示しています。被相続人と長年に亘って共同生活を送ってきた内縁の妻や夫と認められるための証拠としては、同居年数の分かる住民票や、対外的にも夫婦として生活していたことが分かる近隣住民等の陳述書等が考えられるでしょう。なお、内縁の夫や妻と認めるか否かは、諸般の事情から判断されることとなりますが、婚姻届け出はしていなくても婚姻生活を送る意思と婚姻生活の実態が要件となります。おおよその目安として、3年以上の夫婦としての同居期間があれば、内縁の夫や妻と認められやすくなる傾向にあります。

また、特別縁故者への相続財産の分与の程度・内容は、家庭裁判所の裁量に委ねられてはいます。実務上、特別縁故者が内縁の妻や夫、事実上の養親子以外の者である場合は、元々、相続を期待する立場にないことから、基本的に、分与割合が5割を超えることはありません。他方、特別縁故者が内縁の妻や夫、事実上の養親子である場合は、基本的に、残された相続財産の全部の分与を受けることができます(名古屋家裁平成6年3月25日審判参照)。

3 具体的な法的手続き

まずは、被相続人に法定相続人が存在しないことを確定させるために、被相続人の最終住所地を管轄する家庭裁判所において、相続財産清算人の選任の申立てを行わなければなりません(民法952条1項)。この申立てに当たっては、相続財産に預貯金等が含まれていないなど、相続財産の内容からして、相続財産清算人の報酬等の財源が見込めない場合には、管理費用として、50~100万円程度を予納する必要があります(小規模庁では、2、30万円程のところもあります。)。相続財産清算人が選任されると、相続財産清算人が選任されたことを知らせるための公告及び相続人を捜すための公告(官報公告)が6か月以上の期間を定めて行われます(同条2項)。これによって遺産相続が発生している事実を世の中全体に知らせ、法定相続人の申し出を促します。この公告の期間満了までに、法定相続人が現れなければ、法定相続人がいないことが確定します。逆に、法定相続人が現れれば、相続財産は法定相続人が受け取ることになり、特別縁故者への相続財産の分与は行われないこととなります。

その上で、法定相続人が現れず、法定相続人がいないことが確定した場合には、その確定後3か月以内に、被相続人の最終住所地を管轄する家庭裁判所において、特別縁故者に対する相続財産の分与の申立てを行うこととなります(同958条の2)。この3か月という期間を経過すると、特別縁故者に対する相続財産の分与の申立てを行うことができなくなってしまうので、注意しましょう。その審理は、申立人の提出書類の審査や相続財産清算人への意見聴取によって行われますが、場合によっては、裁判官による審問(裁判所が事件を審理するため、書面又は口頭で、当事者その他の利害関係人に陳述させること。)や家庭裁判所調査官による調査が行われることもあります。そして、被相続人の相続財産を分与するとの審判がなされ、これが確定すると、特別縁故者において被相続人の相続財産の分与を受ける権利が形成されることとなり、特別縁故者は、被相続人の相続財産である預貯金の払戻しを受けたり、不動産の名義を自身に変更したりすることができるようになります。

10数年にわたり被相続人名義の家で共同生活を送られてきたということですから原則として内縁関係にあったと認められ、生活の拠点となっていた家について相談者様に分与が認められる可能性が高いと言えます。なお、内縁関係とはいえ、関係の程度に軽重があることが考えられ、遺産全部を分与されるかいなかは、生活状況等を具体的に検討して裁判所が判断することになります。

4 まとめ

以上より、相談者様は、特別縁故者として、ご主人の相続財産の分与を受けることのできる地位にあると考えられます。ただ、実際にご主人の相続財産の分与を受けるためには、相続財産清算人の選任の申立てと特別縁故者に対する相続財産の分与の申立てという2段階の法的な手続きを経なければならないほか、内縁の妻として特別縁故者に当たること、内縁関係が濃密であり全部の遺産を分与すべきであることなどの主張立証も尽くさなければなりません。そのため、お近くの法律事務所で、遺産相続に精通した弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

以上

関連事例集

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※参照条文・判例

民法

第882条(相続開始の原因)

相続は、死亡によって開始する。

第887条(子及びその代襲者等の相続権)

1 被相続人の子は、相続人となる。

2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。

3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

第889条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)

1 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。

① 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。

② 被相続人の兄弟姉妹

2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

第890条(配偶者の相続権)

被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

第900条(法定相続分)

同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。

① 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。

② 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。

③ 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。

④ 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

第907条(遺産の分割の協議又は審判)

1 共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

第952条(相続財産の清算人の選任)

1 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。

2 前項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。

第958条の2(特別縁故者に対する相続財産の分与)

1 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。

2 前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。

第959条(残余財産の国庫への帰属)

前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。

《参考判例》

(東京家裁昭和38年10月7日審判)

申立人は主文同旨の審判を求め、その実情として、申立人は大正一四年五月以来被相続人中島次郎と事実上の夫婦として同棲生活をしてきたところ、同人は昭和二九年四月一二日脳卒中で死亡したが同人には相続人がなかつたので申立人が同人の葬儀を営み菩提を葬つてきたのであるが、被相続人の唯一の遺産である主文記載の家屋はもと申立外山村弘が所有しこれを被相続人が賃借し居住していたものであつて、山村弘が昭和二二年六月一〇日これを財産税のため物納したので、被相続人が国から払下げを受けることになりその代金は被相続人及び同人の死亡後は申立人が分割払で完済しているので、この際被相続人と特別の縁故関係にある申立人に被相続人の遺産たる上記家屋を分与されるよう本申立に及んだと述べた。

よつて調査するに、当庁昭和三四年(家)第八三三九号相続財産管理人選任審判事件、昭和三四年(家)第一三三〇三~一三三〇七号失踪宣告審判事件及び昭和三七年(家)第一〇一六〇号相続人搜索の公告審判事件の各記録、申立人に対する審問の結果及び主文記載家屋の登記簿謄本を綜合すると次の事実が認められる。

(1) 申立人は被相続人中島次郎と大正一二年頃から事実上の夫婦として内縁関係を結び生活を共にしてきたところ両人の間に子供も生れないまま被相続人は昭和二九年四月一二日脳卒中で死亡した。被相続人死亡当時、戸籍簿の記載によれば同人の母中島かつ(明治六年五月一二日生)、兄中島亀男(明治二五年二月二一日生)、妹中島さく(明治三一年五月二八日生)、妹中島タキ(明治三八年二月二八日生)及び弟中島文男(大正四年八月四日生)が生存しているように記載されていたが、同人らは既に長期にわたつて生死が不明であつたので昭和三四年一一月一七日本件申立人より同人らについて失踪宣告の申立がなされ(昭和三四年(家)第一三三〇三~一三三〇七号)所定の手続を経た上昭和三六年三月一五日それぞれ失踪宣告がなされ、同人らはいずれも昭和五年九月一日死亡したものとみなされた。そして、被相続人にはこれ以外に相続人たりうべき者はいなかつた。そこで申立人は被相続人の唯一の身よりの者としてその葬儀を営み菩提を葬う等一切を行なつてきた。

(2) 被相続人の遺産である主文記載の家屋はもと申立外山村弘の所有であつてこれを被相続人が賃借し申立人と共に居住していたものであるが、昭和二二年六月一〇日家主たる山村弘は財産税の納付のためこの家屋を物納し家屋所有権は国に移転した。そこで被相続人は昭和二六年二月二八日国からこの家屋を一万一、三七五円で払下げを受け、代金は分割払でその死亡までに五、八六二円を支払い、残額五、五一三円は被相続人の死後申立人が立替て支払い昭和三〇年三月三一日その支払を完了した。そして、被相続人の死後も申立人はひき続き本件家屋に居住している。

(3) 上記の如く被相続人は相続人なく死亡したので、申立人は昭和三四年七月七日当庁に利害関係人として相続財産の管理人選任を求め(昭和三四年(家)第八三三九号)、昭和三六年一二月八日東京都武蔵野市吉祥寺○○○番地河上竹雄が管理人に選任された。爾来管理人河上竹雄は相続財産の管理に当り昭和三七年六月一日相続債権申出の催告を公告し、更に同管理人からの相続人搜索の公告の申立により(昭和三七年(家)第一〇一六〇号)、当庁は昭和三七年一一月二七日相続権主張の公告をなしたが、催告期間が満了した昭和三八年六月三〇日までに相続権を主張する者はあらわれなかつた。そして、申立人は上記催告期間満了後三ヵ月以内に被相続人と特別の縁故関係にあつたものであると主張し遺産たる本件家屋の付与を求めて適法に本申立に及んだのであるが、申立人以外には上記三ヵ月以内に被相続人との特別縁故関係を主張して相続財産の分与を求めたものはいなかつた。

以上認定の諸事実に相続財産管理人河上竹雄の意見を参酌すれば、申立人を民法九五八条の三にいわゆる被相続人の特別縁故者として本件被相続人の相続財産たる主文記載の家屋を与えることが相当であると認められるので、本申立人を認容し主文のとおり審判する。

(名古屋家裁平成6年3月25日審判)

1 申立の要旨

主文同旨

2 一件記録によれば、次の事実を認めることができる。

〈1〉 被相続人甲太白(以下「甲太白」という)は1965年1月14日死亡した。甲太白は、朝鮮国籍であるが、載前から日本国内に居住しており、朝鮮における本人一人のみの戸籍の存在が判明している以外、親族関係は不明である。そこで当庁において相続財産管理人に弁護士Aが選任され、相続債権等申出の公告、相続権主張の催告などの手続がとられたが、催告期間内に相続人の申出はなかった。

〈2〉 申立人は甲太白の内縁の妻である。すなわち、甲太白と申立人は、昭和15年頃に同棲を始め、昭和16年6月27日に婚姻届を作成して提出すべく準備をしたが、受理されるまでには至らなかった。しかし、甲太白と申立人とは事実上の婚姻状態を継続し、生計を共にして、一男五女を儲けた。そして、子供達はみな申立人の非嫡出子として戸籍に登載されたが、甲太白による認知はなされていない。

〈3〉 甲太白は○○○○株式会社で婚姻当初から稼働していたものであるが、戦後になってそれまで甲太白と申立人とで耕作していた同社社長丙川一郎所有の○○区○○○○にあった農地約1反8畝を、昭和22年10月2日、自作農創設特別指置法の規定により売渡を受けた。ところが、丙川一郎から、○○○○株式会社の工場を拡張するために取得した土地の代替用地として甲太白所有の土地1反を譲って欲しい旨頼まれ、その代わりに別紙物件目録2、3記載の土地(以下「本件2、3の土地」の要領で記載する)とその上に家屋を建築して譲渡する旨の申出を受けた。もしこれが受け入れられなければ、会社は辞めてもらうといわれ、甲太白はこれを承諾することとなり、かくして、昭和33年11月28日、丙川一郎との間に土地交換契約が締結された。なお、現在、相続財産管理人であるAは、本件2、3の土地について、亡甲太白の相続財産であることの確認と交換を原因とする所有権移転登記手続を求めて訴を提起している。

〈4〉 甲太白と申立人ら家族は、昭和34年に本件4の家屋に入居し、維持管理をしてきた。甲太白は、昭和40年1月12日、職場である○○○○株式会社において、脳出血で倒れ、○○○の○○病院に入院し、意識が戻ることなく、同月14日死亡した。葬儀は自宅で甲太白と申立人との間の子である乙川太郎が喪主となって行われ、以後供養は申立人が子供達の協力を得ながら行っている。

〈5〉 生存している子供達は全員、申立人が本件各不動産を取得することに異存がない。

3 国際裁判管轄権

この点についての明文はないので、条理により解釈するほかないが、本件の場合、被相続人の最後の住所地及び相続財産の所在地は日本国内にあるから、わが国に国際裁判管轄権があると認められる。なお、上記のとおり、相続財産管理人もわが国において選任されている。

4 準拠法等について

本件の準拠法について検討するに、特別縁故者への財産分与については、相続財産の処分の問題であるから、条理に基づき、相続財産の所在地法である日本法を適用すべきものと考える。

そして、上記事実によると、申立人は、甲太白の内縁の妻として、法律上の夫婦同様の生活をしてきたものであるから、民法958条の3所定の「特別の縁故があった者」と認めることができる。そして、本件各不動産はすべて甲太白と申立人が協力して形成したものであるから、全部を申立人に分与するのが相当である。

よって、相続財産管理人Aの意見を聴いたうえ、主文のとおり審判する。

以上