税務訴訟の流れ|課税処分を争う流れ
商事|税務|国税通則法|審査請求|行政訴訟
目次
質問:
税務訴訟を起こす場合の具体的な手続の流れを教えてください。
回答:
税務訴訟では不服申し立て前置主義が採られているため、課された課税処分を争うためには、①(必要があれば)再調査の請求、②審査請求を経た後に、③課税処分に対する取消訴訟を提起する必要があります。
このうち、①再調査の請求は必須ではなく、また各手続の特色もあるので、いずれの手続を選択し、どのように争うのか、選択に迷う場面もあります。
お困り場合はお近くの法律事務所にご相談ください。
税務訴訟に関する関連事例集参照。
解説:
1 税務訴訟の流れについて
税務訴訟の審理の流れは、基本的に、課税処分から3ヵ月以内に、①再調査の請求(この場合、再調査の請求が棄却されてから1カ月以内に②審査請求を行います)、又は、②審査請求を行い、さらに審査請求が棄却された場合は、棄却の裁決を知った日から6カ月以内に、③課税処分に対する取消訴訟を提起します。
以下、各手続を概観します(なお、以下では国税通則法を「法」と呼称します)。
2 ①再調査の請求
再調査の請求は、課税処分を決定した税務署長等を相手に、課税処分自体の再考を求める手続です。もっとも一度下した判断の再考に過ぎませんから、再調査請求で判断が覆ることは稀といえます。
⑴ 提起先
課税処分に対する再調査請求は、課税処分をした税務署長等に対して行います(法75条1項)。
⑵ 期限
再調査の請求期間は、課税処分があったことを知った日から3ヵ月以内です(法77条1項)。
⑶ 再調査の認容率
再調査の請求の令和4年度の認容割合(一部認容含む)は、4.6%と非常に低い割合となっています(末尾※1参照)。
⑷ 再調査をする実益
冒頭で述べた通り、①再調査の請求は、税務署所等に再考を求める手続ですから、計算の誤りや基礎資料の誤りといった事情がない限り、判断が覆ることはなく、実際の認容率の極めて低いです。また、①再調査を経ずとも、②審査請求を行うことは可能ですから、このような一見迂遠な手続を経る理由がどこにあるのか、という疑問が生じます。
再調査を実施する実益の一つに、理由開示機能があります。すなわち課税処分の段階では、更生通知書等への理由の附記といった法律上の要請はあるものの(所得税法155条2項等)、詳細な処分理由が記載されることは多くありません。そのため処分理由をより詳しく知りたい納税者にとって、再調査を実施する実益があります。再調査を実施することで、再調査決定書が交付され、当該再調査決定書には、処分が根拠とした法令や通達、処分の根拠とした事実関係、証拠の内容等が記載されます。
再調査の請求は、3ヵ月以内の処理件数割合が99.5%と、比較的迅速に結論が出ます。更正処分に納得できないが、裁判をすることに躊躇する場合、まずは再調査の請求をすることで、再調査決定書の理由を確認し、その後の審査請求に進むか、審査請求に進むのであれば防御方法の参考にすることもできます。このような理由開示機能という点で、再調査を実施する実益があります。
加えて再調査を実施する場面として、課税処分の段階で、税務署側に事実誤認があるとか、十分な事実関係の把握ができていなかった場合も、再調査の実施を検討するべきです。このような場合、再調査の請求時に納税者側から証憑を交えた具体程な反論をすることで、税務署側が考えを改める場合もあります。再調査の請求は、前述のとおり、ほとんどの事案が3ヵ月以内で結論まで至りますから、迅速な解決が期待できる点でもメリットです。
これに対して課税処分の段階で事実関係や争点がはっきりとしている場合は、時間を要するだけですので、再調査を実施せずに審査請求をおこなうといった選択もあり得ます。
3 ②審査請求
審査請求は、再調査とは異なり、第三者的機関である国税不服審判所に審査を求めることになります。
⑴ 提起先
審査請求の提起先は、国税不服審判所です。
国税不服審判所は、国税庁や税務署からは分離した別個の機関ではあるものの、国税庁の組織の一部として設けられており、行政庁の一種です。
⑵ 期限
審査請求は、処分のあったことを知った日の翌日から起算して3ヵ月以内です(法77条1項)。ただし、再調査を経た場合は、再調査の請求が棄却されてから1カ月以内に審査請求を申し立てる必要があります。
⑶ 認容率
審査請求の請求の令和4年度の認容割合(一部認容含む)は、7.1%と、低い割合となっています(末尾※2参照)。
⑷ 実際の審理内容
前述のとおり、国税不服審判所は、税務署や国税局とは独立した機関となるため、再調査の請求よりも第三者的な立場から公正な審理が行われます。
そして国税不服審判所の特色として、職権主義が採用されている点を指摘できます(法97条1項)。職権主義とは、判断権者である国税審判官自らが、判断の基礎となる証拠を収集することを意味し、例えば、国税審判官が、申立人のオフィスに赴いた調査の実施や預金関係書類の取得等、積極的に証拠収集をする場合もあります。
取消訴訟まで進んだ場合、当事者の責任において全て証拠を提出しなければなりませんから(弁論主義)、この点が審査請求の特色です。
他方で、国税不服審判所もあくまで行政庁でありますから、裁判所ほどに中立的な立場とは言えません。例えば、課税処分の法解釈に争いがある場合、国税不服審判所は行政庁である以上、基本的に、国税庁長官が発した通達の拘束を受けます。一応、国税不服審判所は、その権限行使に独立性が認められているため、国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈と異なる解釈により裁決をするとき等は、あらかじめその意見を国税庁長官に通知しなければなりません(法99条1項)。しかしこのような通知がされることは稀といえ、通達の定め自体や適用関係を争う場合、審査請求での取消しを期待することはおよそ難しいものと言わざるを得ません。
そのため、審査請求が開始されてから3ヵ月を経過すれば、取消訴訟を提起することができますので(法115条1項1号)、審理の終結を待たずに、取消訴訟への意向を検討することになります。
なお、審査請求の95.4%は1年以内に審理が終結しています(※2)。
4 ③課税処分に対する取消訴訟
審査請求が棄却された場合、課税処分に対する取消訴訟を提起することになります。なお、租税訴訟には、取消訴訟の他に、無効確認訴訟や差止の訴えもありますが、租税訴訟の大部分はこの取消訴訟に該当するため、これを前提にします。
⑴ 提起先
管轄の地方裁判所に訴えを提起します。
管轄は、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所又は処分若しくは裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所です(行政事件訴訟法12条1項)。また、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高裁の所在地を管轄する地裁にも提起することができます(同2項)。
例えば、秋田県内所在の税務署長が同県所在の原告に対し行った処分の取消の訴えは、被告の国の普通裁判籍を管轄する東京地裁、処分を行った税務署長の所在地を管轄する秋田地裁又は原告の普通裁判籍の所在地を管轄する仙台高裁の所在地を管轄する仙台地裁に提起することができます。
課税処分に対する取消訴訟も三審制が採られており、不服がある場合は、高等裁判所、最高裁判所への進級が可能です。
⑵ 期間
提訴機関は、審査請求の裁決を知った日から6カ月以内です(行政訴訟法14条1項)。
ただし、審査請求がされた日の翌日から起算して三ヵ月を経過しても裁決がないときは、取消訴訟を提起することができます(法115条1項1号)。
⑶ 認容率
税務訴訟の認容率(一部認容含む)は、7.6%と低い水準です(※33)。
⑷ 立証責任について
課税処分に対する取消訴訟の立証責任について、行政庁が確定処分を行うためには、課税要件事実の認定が必要となりますから、課税要件事実の存否および課税標準については、原則として行政庁が立証責任を負うと解されています(最判昭和38年3月3日月報9巻5号668頁)。
納税者側としては、課税処分を、主体、名宛人、主文等によって特定し、これが違法である旨主張すれば、訴訟物は特定されると考えられています。
5 総括
税務訴訟の大まかな流れとしては以上です。よく新聞報道などで「見解の相違」という言葉が報じられることもありますが、突き詰めると法令解釈の相違ということになります。税務当局者の感覚と、一般市民や企業担当者や担当税理士の感覚にズレを生じている場合に、想定外の賦課決定がなされているようです。税務当局者は行政手続き全般にあてはまる「合理性の原則」や「法律に基づく行政の原理(法律の留保)」に従い、各種税法および関連通達などの法令に基づいて課税処分の手続きをしていますから、これを覆そうとすることは基本的に困難な手続きが多いことは否定できませんが、それでも一般常識や条理に照らしてどうしてもおかしいのではないかと感じられる場合は、税務訴訟における救済のチャンスも出てくるのではないかと思います。税務訴訟でお困りの場合は、お近くの法律事務所にご相談ください。
以上