医学生の民事トラブルや刑事事件について (最終更新日平成25年3月6日)
「医学生だがトラブルに巻き込まれた、医師免許取得に影響するか。」「刑事事件に巻き込まれてしまったので医師免許は取得できないのか」、という相談があります。
医学生の場合は、民事トラブルでも軽視することはできません。多くの民事トラブルは、刑事告訴・被害届け提出により刑事事件に発展する可能性を秘めているからです。
例えば、次のような事例が考えられます。トラブル当初は重大な問題ではないと考えていた事例であっても、相手方の態度が強硬な場合は、思わぬトラブルに発展する可能性があります。小さなトラブルは、大学生であれば誰でも巻き込まれる可能性がありますので注意が必要です。
※金銭トラブル→最初から返済するつもりが無かったのではないか→詐欺罪で被害届け・刑事告訴
※男女トラブル→肉体関係を結んだ(キスをした体を触った)のは合意が無かった→強姦罪(強制わいせつ罪)で被害届け・刑事告訴
※喧嘩トラブル→飲酒して喧嘩したときに殴られた→暴行罪・傷害罪での被害届け・刑事告訴
※交通事故トラブル→医学生の運転行為に重大な過失があった→自動車運転過失傷害罪で被害届け・刑事告訴
民事トラブルが発生している場合は、円満に交渉・合意して、刑事事件に発展しない様に終結させることが大事になります。
刑事事件は、現在進行中のものであっても、過去の刑事事件であっても、慎重に検討し対応していくことが必要です。例えば、自動車を運転してスピード違反で検挙された場合に、青切符であれば交通違反反則金ですので罰金刑にはあたりませんが、赤切符(一般道で30キロ以上、高速道路で40キロ以上の違反)であれば罰金刑となりますので、前科として医師免許の申請書に記載することが必要になり、免許を与えるかどうか審査の対象となってしまうのです。
医学生が大学医学部を卒業し、医師国家試験に合格した後に、医師免許(歯科医師免許)の申請をした場合の処理について、医師法(歯科医師法)では、次のような規定があります。
医師法
第四条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一号 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二号 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
三号 罰金以上の刑に処せられた者
四号 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
第六条の二 厚生労働大臣は、医師免許を申請した者について、第四条第一号に掲げる者に該当すると認め、同条の規定により免許を与えないこととするときは、あらかじめ、当該申請者にその旨を通知し、その求めがあつたときは、厚生労働大臣の指定する職員にその意見を聴取させなければならない。
医師法施行規則
第一条(法第四条第一号の厚生労働省令で定める者)医師法 (昭和二十三年法律第二百一号。以下「法」という。)第四条第一号
の厚生労働省令で定める者は、視覚、聴覚、音声機能若しくは言語機能又は精神の機能の障害により医師の業務を適正に行うに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。
第一条の二(障害を補う手段等の考慮)厚生労働大臣は、医師免許の申請を行つた者が前条に規定する者に該当すると認める場合において、当該者に免許を与えるかどうかを決定するときは、当該者が現に利用している障害を補う手段又は当該者が現に受けている治療等により障害が補われ、又は障害の程度が軽減している状況を考慮しなければならない。
歯科医師法
第四条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一号 心身の障害により歯科医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二号 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
三号 罰金以上の刑に処せられた者
四号 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
第六条の二 厚生労働大臣は、歯科医師免許を申請した者について、第四条第一号に掲げる者に該当すると認め、同条の規定により免許を与えないこととするときは、あらかじめ、当該申請者にその旨を通知し、その求めがあつたときは、厚生労働大臣の指定する職員にその意見を聴取させなければならない。
歯科医師法施行規則
第一条(法第四条第一号の厚生労働省令で定める者)歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号。以下「法」という。)第四条第一号
の厚生労働省令で定める者は、視覚、聴覚、音声機能若しくは言語機能又は精神の機能の障害により歯科医師の業務を適正に行うに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。
第一条の二(障害を補う手段等の考慮)厚生労働大臣は、歯科医師免許の申請を行つた者が前条に規定する者に該当すると認める場合において、当該者に免許を与えるかどうかを決定するときは、当該者が現に利用している障害を補う手段又は当該者が現に受けている治療等により障害が補われ、又は障害の程度が軽減している状況を考慮しなければならない。
医師法と歯科医師法では、「心身の障害」により医師又は歯科医師の業務を適正に行うことができない場合に、医師又は歯科医師免許を与えないこととするときは、事前に通知を行い、対象者が希望するときは、厚生労働大臣の指定する職員に「意見聴取」を受けさせるべきことが規定されていますが、申請者に前科がある場合については、明確な規定が設けられていません。
医師又は歯科医師免許の申請について、厚生労働省の申請書式では次のように説明されています。
<参考URL=厚生労働省の資格申請案内ページ>
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryou/shikakushinsei.html
参考書式、医師免許申請書20130306
参考書式、医師免許申請留意事項20130306
参考書式、歯科医師免許申請書20130306
参考書式、歯科医師免許申請留意事項20130306
医師・歯科医師免許申請手続の概要を記します。
1、免許申請書の提出先 → 住民票所在地を管轄する保健所
2、提出書類、添付書類
(1)医師(歯科医師)免許申請書
(2)診断書(保健所配布用紙)
(3)戸籍謄本(発行日から6ヶ月以内)
(4)登録済証明書用ハガキ(医師免許証発行までの必要に応じて発行)
(5)国家試験合格後1年以上経過した申請については、合格職種の業務に従事していない旨の申立書(任意様式)
(6)成年後見登録制度における登記されていないことの証明書(東京法務局後見登録課)
(7)罰金以上の刑に処せられたことの有無の欄が有の場合、次のa〜cの書類を添付
a 罰金以上の刑にかかる判決謄本又は略式命令書
b 罰金刑については当該罰金にかかる領収証書(紛失した場合は支払った旨の申述書)
c 反省文
(注)次の場合は、上記(7)の書類の添付及び申請書への記載(罰金以上の刑に処せられたことの有無)は要しない。
1)消滅した刑の場合
主な刑の消滅事由(刑法34条の2、刑法27条)
・禁固懲役以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで10年を経過したとき
・罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで5年を経過したとき
・刑の免除の言い渡しを受けた者が、その言い渡しが確定した後、罰金以上の刑に処せられないで2年を経過したとき
・刑の執行猶予の言い渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したとき
2)交通反則告知書(いわゆる青切符)による反則金の納付をした場合(罰金刑ではない)。
医学生の方が医師免許・歯科医師免許の申請をする場合に、「罰金以上の前科」が有る場合には、特に注意が必要です。医師法4条3号又は歯科医師法4条3号で、「罰金以上の刑に処せられた者」については「免許を与えないことがある」という規定があるからです。これは、前科が有る場合の医師免許の付与が厚生労働大臣の裁量行為であることを規定した条文といえます。裁量処分の取消訴訟は行政事件訴訟法30条で抑制的に運用されていますので注意が必要です。裁量処分が出てから取り消すのは極めて困難ですから、裁量処分が出ないように事前に努力することがとても大切と言えるでしょう。
行政事件訴訟法30条(裁量処分の取消し)行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。
最高裁判所昭和52年12月20日判決「裁判所が懲戒権者の裁量権の行使としてされた公務員に対する懲戒処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と右処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、それが社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法と判断すべきものである。」
医学生の医師免許申請の場合、医師や歯科医師の行政処分に関する医師法7条と歯科医師法7条は適用されませんし、医道審議会の審査の対象となることもありませんが、厚生労働省の実務では、医道審議会の過去の処分例を参考にして、医師免許を与えるかどうかの判断をしているようです。軽微な罰金刑の場合、免許申請の審査に数ヶ月時間が余計に掛かる場合もあるようですが、しっかりした反省文が提出されれば、医師免許が認められる可能性も十分あると考えてよいでしょう。厚生労働省からの留意事項では「反省文」としか示されていませんが、要するに、刑事処分を受けた後の事情を反省文という形で厚生労働省に説明することが求められていると言えるでしょう。刑事事件を受けて、本人がどのように更生したのか、将来どのように社会貢献していきたいのか、どのような理由でそのように考えるのか、刑事事件後に実際にどのような行動をしてきたのか、詳細に説明することが求められます。被害者のある犯罪では、可能であれば、刑事処分後であっても示談成立させ、その事情を反省文に記載することも有効と考えられます。被害者の無い犯罪でも、例えば交通違反であれば交通遺児基金、薬物違反であれば薬物乱用防止センターに贖罪寄付をするなどの対策が考えられます。弁護士に代理人を依頼して、弁護士の法的な意見書を提出する手段も考えられます。弁護士に相談して手続きすることをお勧め致します。
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