法の支配と民事訴訟実務入門(平成20年9月4日改訂)
各論11、貸金返還請求訴訟を自分でやる。

質問:
知人から頼まれて300万円を貸しましたが、約束の期限を過ぎても返してくれません。弁護士に内容証明郵便で催促してもらいましたが効果がありませんので、訴訟を起こそうと思います。自分でもできるでしょうか。


回答:
1. あなたの請求は300万円の貸金請求で特別な事情も無いようですので総論及び本稿を参考に訴訟を提起してください。

解説

1 自分で裁判ができるか
  本人訴訟か弁護士を頼むかについては、総論を参考にしてください。借用証書があり、弁護士が送った内容証明郵便に対して、反論がないのであれば本人訴訟でも勝訴できるでしょう。ここでは、自分で貸金返還請求訴訟をするという前提で、訴状の書き方や裁判の進め方について具体的に説明します。

2 訴状の書き方

  貸金返還請求の訴状は次のようなものになります。

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訴状
平成  年  月  日
00地方裁判所00支部 御中
〒   住 所                 (送達場所)
   原告
〒   住 所 
被告
貸金等請求事件
訴訟物の価額   金300万0000円
貼用印紙額    金 2万2600円

請 求 の 趣 旨
1 被告は,原告に対し,金300万0000円及びこれに対する平成19年7月1日から支払済みまで年10パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。

請 求 の 原 因
第1 金銭消費貸借
原告は、被告に対し平成19年5月1日、次のとおり金員を貸し渡し、被告は返還の約束をしてこれを受領した(甲1 借用証)。
貸金額    金300万円
返済時期   平成19年6月30日
利息     年5パーセント
遅延損害金  年10パーセント
第2 結語
  よって、原告は被告に対し、元金金300万円と平成19年5月1日から同年6月31日までの利息金4万1780円、合計金304万1780円円の支払いとこれに対する返済期日の翌日である平成19年7月1日から支払い済みまで年10パーセントの割合の遅延損害金の支払いを求め訴えを提起する。

立 証 方 法
甲1  借用書(原告と被告の金銭消費貸借契約の成立について)

付 属 書 類
1 訴状副本      1通
2 甲号証正副本
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3 訴状の書き方
@ 訴状の構成は、他の事件と同様まず表題的なものとして、裁判所に提出する日付、宛名として提出する裁判所、当事者の表示として原告と被告の住所を記載します。提出する裁判所は管轄裁判所を記載します。原則は被告の住所地の地方裁判所ですが、金銭債務は持参債務と言って債務の履行地は債権者の住所地ですので、原告の住所地を管轄する裁判所にも管轄があります。
A 事件名、訴額と貼用印紙額の記載
事件名は、原告が自由に付けて良いのですが、貸金返還請求事件とするのが通常です。訴額は、返還請求する元金の金額となります。訴額によって貼用印紙額が決められていますので、裁判所に確認してください。必要な印紙を訴状に貼って提出することになります。なお、訴額の記載は、空欄にしておいて裁判所の受付で確認してから記載するほうが、間違いないでしょう。
B 以上が表題的な部分で、次に本文として「請求の趣旨」「請求の理由」となります。まず請求の趣旨には、原告が裁判所に求める判決の主文を記載します。全面勝訴の場合は、「請求の趣旨」の記載が、そのまま、判決主文となります。「判決主文 別紙請求の趣旨記載の通り」と記載されることもあります。
C 裁判所は原告が求める判決について理由があるかないかを判断することとなっています。原告としては、お金を払えという判決をしてもらうことになりますので、端的にその旨記載する必要があります。ここでは、何のお金かを記載する必要はありませません。大切なことは強制執行できるような主文を判決してもらうということです。
 そこで請求の趣旨には、元金と訴訟提起時までに発生している利息の合計金額を記載し、それに対する遅延損害金を割合で記載して、その金額を支払え、と判決で命令してもらうことを記載します。
D  次に請求の原因には、原告が記載した請求の趣旨の根拠となる事実を記載します。貸金返還請求は返すことを約束して貸したお金を期限後に支払えという裁判で、この権利が原告にあるか否かの争いになるのですが、権利があるかないかを争うという抽象的な議論ではなく、そのような権利が発生する事実があるか否かを裁判所が判断するのが裁判です。この辺の議論は総論の要件事実を参考にしてください。貸金訴訟の場合の原告が主張立証すべき事実は、返還の約束、何月何日お金を渡したこと、利息の支払いの約束、返還時期、遅延損害金の支払いの約束です。
 ここで注意すべき点は、「期限までに返還しない」という事実は、返還した事実について被告に主張立証責任責任があるので、訴状に記載する必要はないということです。返還した事実は「抗弁」と言って被告が主張立証することになっています。とは言っても、返還しないので裁判をするわけですから、その旨訴状に記載するのが普通ですし、もちろん記載したからと言って原告が不利益になるわけではありません。
 また、利息の支払いは金銭消費貸借とは別の契約とされていますから、利息を支払うことを約束した場合に限って請求できます(商法が適用される場合は常に利息が請求できます)ので、その旨(利息の約束があったことについて)原告が主張立証する必要があります。
E 訴状の提出
訴状が完成したら裁判所に提出することは、他の事件と同じです。訴状と一緒に証拠書類の写しを提出することになっています。貸金訴訟では借用書あるいは金銭消費貸借契約書が提出されるのが普通です。証拠は裁判が始まってからも提出できますが、あらかじめ提出できるものは早く提出しておくことになっています。

 4 裁判が始まるとどうなるか
   裁判手続きについては、他の訴訟事件と同様です。被告が訴状の請求の趣旨に記載されている事実を認めれば判決ができることになり裁判は終結して判決の言い渡しとなります。
被告が、事実を否認した場合、判決をするには否認した事実について証拠が必要になります。被告が、事実を否認しても借用証があれば、通常は立証としては十分でしょう。しかし、借用証の成立を被告が否認することがあります。被告の署名捺印でなく被告以外の者が勝手に作成した偽造である、と反論することがあります。また、署名は認めても、「お金を借りる約束をして借用証を作って渡したが、お金を受け取っていない」と反論することがあります。このような反論が予測される場合は証拠を準備しておく必要があります。
また、被告が金銭の受領を認めながら返還の約束はなくもらったお金だ、などと主張することがあります。このような被告の主張は「返還の約束」の否認となりますから、その事実については原告に主張立証責任があります。とはいえ、質問のように300万円もの金額を贈与するとういのは普通では考えられないことですから、被告から贈与を受ける関係にあったことを裏付ける事実の主張がない限りは原告の主張が認められるでしょう。被告から具体的な主張がされた場合に限り、原告としては大金を贈与するような事情や関係がなかったことを主張立証することになるでしょう。


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