法の支配と民事訴訟実務入門(平成30年7月15日改訂)
各論13、交通事故損害賠償請求訴訟を自分でやる。
質問
自動車を運転して追突され10日間入院しました。退院後も手足のしびれや頭痛のため1カ月ほど会社を休みました。その後も1年ほど通院し、これ以上良くならないということで後遺症の診断書をもらいました。加害者は任意保険に加入していますが保険会社の対応が悪いので裁判で請求したいのですが、どのようにすれば良いでしょうか。
回答
1. 貴方は、交通事故により1年間も治療し、後遺症もありますから、まず自動車損害賠償責任保険(自賠責)の請求をしてから、填補できない部分について不法行為に基づき損害賠償請求訴訟を提起するほうがいいと思います。訴状は書式を参照してください。
2. 請求の内容は、大きく分けて財産的損害と、精神的な苦痛・損害である慰謝料があります。財産的損害は、事故により直接生じた損害(積極的損害)、例えば、治療費、入院付添費、請求のための弁護士費用と事故が原因で本来予定されていた財産的収入が失われたという消極的損害、例えば、休業損害、後遺症による労働力喪失による収入の減額があります。慰謝料についても事故による生命身体に対する侵害に対する慰謝料と、事故後の後遺症に対する慰謝料に分かれます。交通事故の損害の額については、長年にわたり判例が集積されており弁護士会(日弁連交通事故相談センター)発行の損害賠償算定基準(いわゆる「赤本」、弁護士会の本屋さんで手に入れてください)を参考にするとわかりやすいでしょう。
3. 本件のような追突事故でも基本的に過失相殺が問題となり前記赤本によりますと過失割合として加害者80、被害者20となっています。加害者にスピード違反、重過失等がありますと加害者に過失割合が加算されます。
4. 通常、加害者は強制、任意保険に加入していますが、あなたがおっしゃるように保険会社としては営業上なるべく支出を少なくしようとして不親切な場合がありますので、強制保険の支払いや算定額について食い違いが大きい場合は弁護士と相談することが必要です。訴訟の場合請求認容額の5%−10%程度損害として弁護士費用が認められますので困難な事件は専門家に相談するのも方法です。
5. 尚、その他交通事故で問題となる点について事務所事例集をホームページで参照してください。(NO783、776、760、729、701、668、654、624、596、566、493,306,286,270、265,238各号をご参照ください。)
解説
交通事故による損害賠償請求の基本的考え方を説明します。
損害賠償請求の根拠は不法行為(民法709条)にありますから要件として加害者の過失が必要となります。この過失は、被害者が立証するのが原則です。総論で説明しましたが、立証責任分配の原則に従い損害賠償請求により利益を受ける被害者側にその責任があるからです。しかし、この原則に従うと過失の内容は注意義務違反を内容とするので範囲が無限定であり何が注意義務なのかを特定し証明するのが実は意外と困難な場合が多いのです(刑事事件でも過失犯はそういう意味で立証が大変ですし検察官も慎重です)。しかし、交通事故の真の原因は、過失よりも存在自体が生命身体の自由侵害の危険性を常に有する走る凶器、自動車そのものにありますし、自動車の運行により利益を受けている加害者が立証責任において被害者より有利な立場にあること自体が不公平とも言えます。又その被害額は、死亡・障害の程度により予想を超える額となってしまいます。もともと私的自治の原則の内容をなす過失責任というのは公正、公平な法社会秩序建設のために法の支配の理念から制度化されたものでありそれ自体目的ではありませんから、公平公正の理念により当然修正されなければなりせん。そこで危険責任、報償責任、公平の理念に基づき人身事故について昭和30年自動車損害賠償補償法が制定施行されました。その内容は基本的に3つあります。
@事実上の立証責任の転換(自賠法3条)。加害者が自分に過失がない等法定の3要件を立証しないと過失が認められます。ないことの証明であり事実上立証できませんので挙証責任の転換になります。従って、裁判上加害者側(保険会社)は「過失」という問題を被害者側の過失がどれだけかという過失相殺という争点に移していきます。
A責任主体の拡大(自賠法2条3条。)運行供用者に対する責任を認めました。実際に運転してなくても車両の所有者、占有者も運行供用者であれば責任があります。運行供用者は危険、報償責任から認められる概念ですから「自己のために」という条件が付きます。例えば他人(会社)のために運転する会社の従業員は運行供用者ではありません。会社が運行供用者です。条文の定義を参照してください。
B保険の強制加入(同法5条、86条の3。)保険に入らないと車に乗れませんし違反すると刑事処罰されます。
Cその他ひき逃げ、盗難車、無保険車両による損害救済事業の国による設立があり自賠責の保障が可能です。(同法72条)。
尚、人身事故は必ず業務上過失致死傷等刑事事件の問題となりますので過失の存否、割合が争点となった時には刑事裁判、捜査資料の検討が必要となるでしょう。確定した記録は閲覧できますし(刑訴53条、刑事確定訴訟記録法4条)、裁判上取り寄せもできます(文書送付嘱託、民訴226条、総論12参照)。不起訴になった場合検察庁は記録を公開しないが実務上被疑者段階の資料も裁判所の要請(送付嘱託)があれば刑訴47条『公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合』として訴訟関係人の名誉等を不当に侵害しない一定の書類の確保が可能でしょう。
以下詳論します。
1 自分で裁判ができるか
本人訴訟か弁護士を頼むかについては、総論を参考にしてください。特殊な損害を請求する場合や過失相殺に争いがあり、損害の証明が困難な場合を除いては本人訴訟でも勝訴できるでしょう。
2 訴状の書き方
交通事故の損害賠償の請求は次のような訴状になります。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
訴 状
平成 年 月 日
00地方裁判所 民事部 御中
〒000−0000 住所 (送達場所)
電 話
FAX
原 告
〒000−0000 住所
被 告
損害賠償(交通事故)請求事件
訴訟物の価額 金 万 円
貼用印紙額 金 万 円
第1 請求の趣旨
1 被告は,原告に対し,金000万0000円とこれに対する平成 年 月日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行宣言を求める。
第2 請求の原因
1 交通事故の発生
原告は,下記交通事故(以下、「本件事故」と言う。)により負傷した。
(1) 日時 平成 年 月 日午後 時 分ころ
(2) 場所 東京都00区00 丁目 番地 首都高速1号線上り先路上
(3) 事故の当事者及び運転車両
原告搭乗車両 事業用普通乗用自動車
ナンバー 品川00い0000
被告車両 事業用大型貨物自動車
ナンバー 多摩00は0000
(4) 事故の状況
原告が運転していた車両が、高速道路上、渋滞の最後尾で停車したところ、後方から、被告の運転する車両(上記加害車両)が追突したため、原告車輌は前に停車していたトラックに玉突き状態で衝突し、原告は頭部を強打した。
2 当事者
原告は、株式会社000の従業員である。
3 責任原因(運行供用者)
被告は、本件事故の際、被告車両を事故のために運行に供していた者で、自賠法3条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。
4 原告の傷害の内容
(1) 傷病名及び受傷部位
(2) 自覚症状
(3) 症状固定日 平成 年 月 日
(4) 後遺症の程度・等級 後遺障害認定等級第 級 号
5 損害の発生
(1) 入院治療費 00万0000円
ア 原告は,本件事故により,上記の後遺症を伴う傷害の被害を受け,症状固定日までの入通院治療費の支出を余儀なくされた。
イ そして,平成 年 月 日(本件事故日)から平成 年 月日までの入通院治療費は(入院 日、実通院日数 日)、合計 円である。
(2) 通院交通費 0000円
前記入通院についての必要な通院費は、0000円であった。
(3) 傷害(入通院)慰謝料 金000万円
原告は,本件事故により,上記の後遺症を伴う傷害の被害を受け,症状固定日までの入通院治療を余儀なくされ,その間,精神的苦痛を受けた。
(4)逸失利益(休業損害)00万0000円
(5)後遺症逸失利益 00万0000円
ア 基礎収入
イ 労働能力喪失率
ウ 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
原告は,症状固定日00歳であり、後遺症による症状は今後も悪化する蓋然性が高く、労働能力喪失期間は少なくとも10年間を下らない。
そして、10年に対応するライプニッツ係数は,7.7217であることから損害額は次の計算式のとおりとなる。
エ 計算式
000万円×0.14×7.7217=000万0000円
(6)後遺症慰謝料 万円
ア 原告は,本件事故により,自算会から後遺障害認定等級第00級00号の認定を受けたが、下記の慰謝料増額理由が存在するため原告の後遺症慰謝料は000万円を下らない。
イ 増額事由
6 既払金
原告は、被告の加入する任意保険から金00万0000円の支払いを受けたが、上記損害の賠償として支払われたのは治療費と通院費合計00万円である。
7 既払金控除後の原告の損害小計額 金0000万0000円
8 損害合計額
よって,原告は,不法行為及び運行供用者責任に基づき,上記損害の合計金000万0000円及びこれに対する本件事故日である平成00年00月00日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め訴えを提起する。
証 拠 方 法
別紙証拠説明書のとおり
附 属 書 類
1 訴状副本 1通
2 甲号証写し正副本 各1通
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3、訴状の書き方
@ 表題部分の記載方法や請求の趣旨の記載の方法は他の訴訟と変わりがありません。訴状の構成は、他の事件と同様まず表題的なものとして、裁判所に提出する日付、宛名として提出する裁判所、当事者の表示として原告と被告の住所を記載します。提出する裁判所は管轄裁判所を記載します。原則は被告の住所地の地方裁判所ですが、金銭債務は持参債務と言って債務の履行地は債権者の住所地ですので、原告の住所地を管轄する裁判所にも管轄があります。
A 事件名、訴額と貼用印紙額の記載
事件名は、原告が自由に付けて良いのですが、交通事故損害賠償請求事件とするのが通常です。訴額は、返還請求する元金の金額となります。訴額によって貼用印紙額が決められていますので、裁判所に確認してください。必要な印紙を訴状に貼って提出することになります。なお、訴額の記載は、空欄にしておいて裁判所の受付で確認してから記載するほうが、間違いないでしょう。
B 以上が表題的な部分で、次に本文として「請求の趣旨」「請求の理由」となります。まず請求の趣旨には、原告が裁判所に求める判決の主文を記載します。裁判所は原告が求める判決について理由があるかないかを判断することとなっています。原告としては、お金を払えという判決をしてもらうことになりますので、端的にその旨記載する必要があります。ここでは、何のお金かを記載する必要はありませません。大切なことは強制執行できるような主文を判決してもらうということです。
そこで請求の趣旨には、損害賠償請求する金額と交通事故の日から支払い済みまでの遅延損害金を年5分という割合で記載して、その金額を支払え、と判決で命令してもらうことを記載します。
C 被告を誰にするか
交通事故の損害賠償は民法では不法行為(民709以下)になりますが、交通事故の特別法である自動車損害賠償保障法が適用されます。この法律では「自動車の運行供用者」が賠償の責任を負うことになっています。そこで運行供用者を被告として裁判を起こすことになります。運行供用者とは一般的に自動車の所有者、運転者と考えて良いでしょう。自動車の所有者と運転者が別の場合は両方訴えることもできます。なお、任意保険会社は直接の被告とはなりません。損害保険会社は加害者との関係で損害を賠償する責任を負うだけですから、被害者が直接保険会社に請求することはでず被告とすることもできません(自賠責保険については、訴訟外で被害者請求という制度が設けられています)。
D 請求の原因@からCについて
交通事故の発生については、事故証明書に沿って書くのが良いでしょう。ここでは、客観的な事実を記載し、過失等には触れないでください。
当事者については、特殊な損害賠償を請求する場合は説明が必要になります。その他の場合も、裁判所に事情を知ってもらうということで、職業や経歴について説明しておくのが良いでしょう
責任原因については、被告が自賠法3条に基づく運行供用者であることをしてきすることになります。
原告の傷害の内容については、診断書に基づいて記載してください。後遺症がある場合は後遺症診断書に基づいて記載することになります。後遺症の認定等級については、訴訟前の段階で保険会社が損害保険料率算出機構( https://www.giroj.or.jp/ )というところで認定してもらっています。この認定については異議の申し立て等できるので、訴訟になる前に検討しておいたほうが良いでしょう。もちろん、裁判が始まってからこの認定と違った請求をすることは可能ですが、認定と異なった後遺症であることの主張立証は困難な場合が多いでしょう。
E 損害の発生
つぎに、損害について金額を提示して請求することになります。
交通事故の損害として死亡事故でない場合は
(1) 入院治療費
(2) 通院交通費
(3) 傷害(入通院)慰謝料
(4)逸失利益(休業損害)
(5)後遺症逸失利益
(6)後遺症慰謝料
となっています。慰謝料と逸失利益以外は実際に出費した金額です。領収書を準備する必要があります。ただし、これらの金額は保険会社も把握しており裁判で証拠が必要になることはあまりないでしょう。通院交通費等についてはタクシー代が問題になりますが、負傷の程度によって認められことになります。慰謝料については弁護士が請求する場合の基準として、弁護士会から「赤い本」という損害賠償算定基準を示した本が出版され弁護士もこれを基準に訴状を作成していますので参考にしてください。この本は、交通事故の裁判をするには必要不可欠ですので裁判前に準備しておくとよいでしょう。
4 裁判が始まるとどうなるか
裁判手続きについては、他の訴訟事件と同様です。被告が訴状の請求の趣旨に記載されている事実を認めれば判決ができることになり裁判は終結して判決の言い渡しとなります。
被告の代理人には任意保険会社が弁護士を選んで被告の代理人となります。交通事故の裁判で問題となるのは、損害額の認定については後遺症がある場合や、特殊な職業の場合の逸失利益の計算が必要な場合などです。しかし、この点についてはどのように評価するかという問題が多く、事実関係についての争いはあまりありません。事実関係の立証が問題になるのは過失相殺を被告が主張した場合です。被害者である原告にも落ち度があったので、損害額を30パーセント減額すべきであるという主張です。この場合の前提として事故の態様、原因が問題になります。追突であれば、後ろから来て追突したか加害者が100パーセント悪いようにも思います。確かに停車していた車両に追突した場合は被害者に非はないでしょうが、急ブレーキをかけて止まったりしたような場合は20から30パーセント被害者にも落ち度があるので損害額を減額するということになっています。そこで、急ブレーキをかけたのか否か事実に争いがある場合は、事実認定の必要な裁判になります。
最後に既払金を差し引いて損害額を請求する旨きさいします。遅延損害金は事故の日から計算することになっています。これは事故の日にすぐに損害が発生し弁償すべきであるのに、支払いが遅れたという考え方です。年5分という割合は民法の利息の規定を根拠としていますので、この割合を記載する必要があります。
5 交通事故の訴訟では、争点整理のため弁論準備手続きにより別室で主張、立証、争点整理、話し合い、そして和解案の提示が必ず行われます。裁判官も意見を積極的に述べることが多いと思います。これは被害者の早期救済という点もありますが、過失相殺の割合、損害額の認定(逸失利益の内容、高額事件では後遺症障害の介護費用算定等)が難しいという点もあります。場合により弁護士との相談も必要でしょう。
≪条文参照≫
民法709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
民法722条2項「被害者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができる。」
自動車損害賠償保障法
第一章 総則
(この法律の目的)
第一条 この法律は、自動車の運行によつて人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律で「自動車」とは、道路運送車両法
(昭和二十六年法律第百八十五号)第二条第二項
に規定する自動車(農耕作業の用に供することを目的として製作した小型特殊自動車を除く。)及び同条第三項
に規定する原動機付自転車をいう。
2 この法律で「運行」とは、人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。
3 この法律で「保有者」とは、自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するものをいう。
4 この法律で「運転者」とは、他人のために自動車の運転又は運転の補助に従事する者をいう。
第二章 自動車損害賠償責任
(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
(民法 の適用)
第四条 自己のために自動車を運行の用に供する者の損害賠償の責任については、前条の規定によるほか、民法
(明治二十九年法律第八十九号)の規定による。
第三章 自動車損害賠償責任保険及び自動車損害賠償責任共済
第一節 自動車損害賠償責任保険契約又は自動車損害賠償責任共済契約の締結強制
(責任保険又は責任共済の契約の締結強制)
第五条 自動車は,これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険(以下「責任保険」という。)又は自動車損害賠償責任共済(以下「責任共済」という。)の契約が締結されているものでなければ,運行の用に供してはならない。
(保険金額)
第十三条 責任保険の保険金額は,政令で定める。
2 前項の規定に基づき政令を制定し,又は改正する場合においては,政令で,当該政令の施行の際現に責任保険の契約が締結されている自動車についての責任保険の保険金額を当該制定又は改正による変更後の保険金額とするために必要な措置その他当該制定又は改正に伴う所要の経過措置を定めることができる。
(自動車損害賠償保障事業)
第七十一条 政府は、この法律の規定により、自動車損害賠償保障事業を行う。
(業務)
第七十二条 政府は、自動車の運行によつて生命又は身体を害された者がある場合において、その自動車の保有者が明らかでないため被害者が第三条の規定による損害賠償の請求をすることができないときは、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害をてん補する。責任保険の被保険者及び責任共済の被共済者以外の者が、第三条の規定によつて損害賠償の責に任ずる場合(その責任が第十条に規定する自動車の運行によつて生ずる場合を除く。)も、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害をてん補する。
第八十六条の三 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第五条の規定に違反した者
刑事訴訟法
第47条 訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。
第五十三条 何人も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができる。但し、訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは、この限りでない。
○2 弁論の公開を禁止した事件の訴訟記録又は一般の閲覧に適しないものとしてその閲覧が禁止された訴訟記録は、前項の規定にかかわらず、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があつて特に訴訟記録の保管者の許可を受けた者でなければ、これを閲覧することができない。
○3 日本国憲法第八十二条第二項但書に掲げる事件については、閲覧を禁止することはできない。
○4 訴訟記録の保管及びその閲覧の手数料については、別に法律でこれを定める。
刑事確定訴訟記録法
(目的)
第一条 この法律は、刑事被告事件に係る訴訟の記録の訴訟終結後における保管、保存及び閲覧に関し必要な事項を定めることを目的とする。
(訴訟の記録の保管)
第二条 刑事被告事件に係る訴訟の記録(犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律
(平成十二年法律第七十五号)第五条第一項
に規定する和解記録については、その謄本)は、訴訟終結後は、当該被告事件について第一審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官(以下「保管検察官」という。)が保管するものとする。
2 前項の規定により保管検察官が保管する記録(以下「保管記録」という。)の保管期間は、別表の上欄に掲げる保管記録の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に定めるところによる。
3 保管検察官は、必要があると認めるときは、保管期間を延長することができる。
(再審の手続のための保存)
第三条 保管検察官は、保管記録について、再審の手続のため保存の必要があると認めるときは、保存すべき期間を定めて、その保管期間満了後も、これを再審保存記録として保存するものとする。
2 再審の請求をしようとする者、再審の請求をした者又は刑事訴訟法
(昭和二十三年法律第百三十一号)第四百四十条第一項
の規定により選任された弁護人は、保管検察官に対し、保管記録を再審保存記録として保存することを請求することができる。
3 前項の規定による請求があつたときは、保管検察官は、請求に係る保管記録を再審保存記録として保存するかどうかを決定し、請求をした者にその旨を通知しなければならない。ただし、請求に係る保管記録が再審保存記録として保存することとされているものであるときは、その旨の通知をすれば足りる。
4 再審保存記録の保存期間は、延長することができる。この場合においては、前三項の規定を準用する。
(保管記録の閲覧)
第四条 保管検察官は、請求があつたときは、保管記録(刑事訴訟法第五十三条第一項
の訴訟記録に限る。次項において同じ。)を閲覧させなければならない。ただし、同条第一項
ただし書に規定する事由がある場合は、この限りでない。
2 保管検察官は、保管記録が刑事訴訟法第五十三条第三項
に規定する事件のものである場合を除き、次に掲げる場合には、保管記録(第二号の場合にあつては、終局裁判の裁判書を除く。)を閲覧させないものとする。ただし、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があつた場合については、この限りでない。
一 保管記録が弁論の公開を禁止した事件のものであるとき。
二 保管記録に係る被告事件が終結した後三年を経過したとき。
三 保管記録を閲覧させることが公の秩序又は善良の風俗を害することとなるおそれがあると認められるとき。
四 保管記録を閲覧させることが犯人の改善及び更生を著しく妨げることとなるおそれがあると認められるとき。
五 保管記録を閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することとなるおそれがあると認められるとき。
3 第一項の規定は、刑事訴訟法第五十三条第一項
の訴訟記録以外の保管記録について、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があつた場合に準用する。
4 保管検察官は、保管記録を閲覧させる場合において、その保存のため適当と認めるときは、原本の閲覧が必要である場合を除き、その謄本を閲覧させることができる。
(再審保存記録の閲覧)
第五条 保管検察官は、第三条第二項に規定する者から請求があつたときは、再審保存記録を閲覧させなければならない。
2 前条第一項ただし書及び第四項の規定は、前項の請求があつた場合に準用する。
3 保管検察官は、学術研究のため必要があると認める場合その他法務省令で定める場合には、申出により、再審保存記録を閲覧させることができる。この場合においては、前条第四項の規定を準用する。
(閲覧者の義務)
第六条 保管記録又は再審保存記録を閲覧した者は、閲覧により知り得た事項をみだりに用いて、公の秩序若しくは善良の風俗を害し、犯人の改善及び更生を妨げ、又は関係人の名誉若しくは生活の平穏を害する行為をしてはならない。
(閲覧の手数料)
第七条 保管記録又は再審保存記録を閲覧する者は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を納付しなければならない。
(不服申立て)
第八条 第三条第二項の規定により保存の請求をした者(同条第四項において準用する同条第二項の規定により保存期間の延長の請求をした者を含む。)又は第四条第一項(同条第三項において準用する場合を含む。)若しくは第五条第一項の規定により閲覧の請求をした者であつて、当該請求に基づく保管検察官の保存又は閲覧に関する処分に不服があるものは、その保管検察官が所属する検察庁の対応する裁判所にその処分の取消し又は変更を請求することができる。
2 前項の規定による不服申立てに関する手続については、刑事訴訟法第四百三十条第一項
に規定する検察官の処分の取消し又は変更の請求に係る手続の例による。
(刑事参考記録の保存及び閲覧)
第九条 法務大臣は、保管記録又は再審保存記録について、刑事法制及びその運用並びに犯罪に関する調査研究の重要な参考資料であると思料するときは、その保管期間又は保存期間の満了後、これを刑事参考記録として保存するものとする。
2 法務大臣は、学術研究のため必要があると認める場合その他法務省令で定める場合には、申出により、刑事参考記録を閲覧させることができる。この場合においては、第四条第四項及び第六条の規定を準用する。
3 刑事参考記録について再審の手続のため保存の必要があると認められる場合におけるその保存及び閲覧については、再審保存記録の保存及び閲覧の例による。
4 法務大臣は、法務省令で定めるところにより、第一項又は第二項の規定に基づく権限を所部の職員に委任することができる。
(法務省令への委任)
第十条 この法律に規定するもののほか、この法律の実施に関し必要な事項は、法務省令で定める。