法の支配と民事訴訟実務入門(平成20年9月22日改訂)
各論19、債務整理(特定調停)を自分でやる。
質問:債務整理を自分でやりたいのですが、どうしたらよいですか。
↓
回答:
1. 裁判所が取り扱う債務整理には、大きく分けて債権者側との協議で現在の事業、生活を建て直す再建型の債務整理である民事調停、特定調停、民事再生、会社更生法による手続きと、債権者の意見とは無関係に一旦現在の事業、財産関係をすべて清算する破産手続きに分かれます。
2. 次に、裁判所の公的機関の介入監督なくして事業者等が弁護士等に委任して行う「私的整理」「内整理」があります。但し破産と同じように一切の財産関係を清算する手続きになるでしょう。
3. 本件では、すべてご自分で手続きをしたいとのことですので特定調停を中心にご説明します。
4. 尚、資産を有する私的債務整理には法的資格者以外の整理グループが甘言を持って直接、間接に債務整理に介入することがありますので注意してください。
解説
債務整理の基本的考え方。
1. 債務整理とは、債務者が自らの資産、信用では債権者に約束に従って弁済することができないので債権者に猶予、減額、放棄を求める手続きを言います。我が国の法秩序は自由主義経済体制を採用し私有財産制、私的自治の原則、契約自由の原則を基本としていますから、契約により約束した債務は、生活が苦しくても必ず履行しなければならないはずです。しかし、自由義経済、競争社会の宿命的欠陥として必ず勝者、敗者が生じ、勝者は資本をさらに増加、蓄積し敗者はさらに不利益な経済状態におかれ不平等な社会関係が恒常的に維持継続されることになります。もともと、自由義体制、制度の目的は法の支配の理念である個人の尊厳の保障、自由、公正、公平な社会秩序の建設にありますから、このような不平等な状態は制度に内在する公正、公平の原理により直ちに解消されなければならないのです。すべての国民は、特に不当、違法行為がない限り自由競争に敗れ過大な負債を負担しても債務整理を求める法的権利を当然有するのです。これに対応して法は事案に応じて多くの救済制度を用意しています。
2. 債務整理手続きは裁判所の関与する公的手続きと、公的機関の関与なく進める私的整理、内整理に分かれます。公的整理は、債権者の意思に関係なくすべての財産関係を整理、清算し一から出直す「破産」と債権者との協議により現在の財産をもとに財産事業関係を再建する民事調停、民事調停の特則である特定調停、民事再生、会社更生法があります。私的整理は通常法律事務所に依頼し、裁判所の破産手続と同様の処理を迅速に行おうとするもので、債権者集会、債権放棄減額の交渉は債務者個人が1人で行うことは難しいでしょう。公的整理は、民事再生(経営者存続。給与所得者再生もあなた単独では手続きが大変でしょう)、会社更生法(旧経営者退陣、更生管財人就任)ともある程度規模の債務整理で、債権者との根回し(基本的に民事再生は債権者及び額の2分の1、民事再生法172条の3。会社更生は3分の2を有する債権者の賛成。会社更生法196条)が必要であり個人では手続きに困難が伴います。そこで、貴方の債務が消費者金融による借り入れなど小規模であれば、中立の専門家のアドヴァイスも必要ですから、民事調停の中で債務整理に対応して平成12年に施行された民事特定調停制度をご提案します。以下詳論します。
1. 特定調停とは、借金の返済が滞りつつある債務者について、裁判所が、債務者と債権者との話し合いを仲介し、返済条件の軽減などの合意が成立するようにはたらきかけ、弁済計画を作成して債務者が経済的に立ち直れるよう支援する手続きです。特定という意味は、債務整理が必要な金銭債務者に限定しているという意味です。
2. 特定調停法ができるまでは、話し合いによる債務整理は民事調停で行われてきました。しかし、ノンバンクからの金銭借入が手軽、容易になり金銭多重債務の発生、日常生活の圧迫が生じ、早期の経済的再起更生は自由主義経済の公正な社会秩序維持には不可欠の要請となりました。そこで、債務整理開始の要件を緩和し(破産より広く債務整理の可能性があればできます。)執行停止の範囲を拡大(特定調停法7条。要件が緩和され債権者が判決による債務名義を持っていても可能。民事調停規則6条)弾力的で個人、法人を問わず規模に制限もなく一部債権者との調停も可能な特定調停制度が作られました。
特定調停法第1条 この法律は、支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生に資するため、民事調停法の特例として特定調停の手続きを定めることにより、このような債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を促進することを目的とする。
3. 特定調停はその手続きを申立人(債務者)と裁判所(調停委員)が行いますので、規模が小さければ弁護士や司法書士を代理人に依頼する必要がありません。申立前と調停成立時の2回程、相談を受ける事をお勧めいたしますが、基本的に本人による手続が十分可能だと思います。自己破産とは違って、債務の返済を継続していくことが前提となりますので、一定の収入がある人でなければなりません。利息制限法の制限利率に従って計算しなおした債務残額を、3年程度で返済できる見込みがあるかどうか、が基準となるようです。
4. 裁判所が、申立人から家計の状況を聴取し、毎月の収入から生活費を差し引いて、支払原資を算出し、この支払原資を各債権者の債権額に応じて比例配分することによって各債権者に対する毎月の支払額を算出します。任意整理では、この作業を弁護士等がおこないますが、特定調停では裁判所が作成してくれます。申し立ても、自己破産や個人再生にくらべて簡単ですので、法律知識がない人でも可能で、申立費用も安く(東京簡裁の場合債権者1件につき500円)済みます。実際には、申立書に手数料としての収入印紙を貼り、申立書提出時に予納郵券(1200円+(250円×債権者数)分の切手)を納めることになります。
5. 申立必要書類は、申立書、関係権利者一覧表、特定債務者に関する資料(申立人の収入明細、支出明細、資産明細)、住民票、戸籍謄本、課税証明書等です。裁判所によって若干違いがあるようですので、管轄の簡裁に問い合わせてみてください。申立書や関係権利者一覧表、特定債務者に関する資料は、各裁判所に雛型(用紙)の用意がありますので、それを使用することができます。管轄裁判所はそれぞれ債権者の所在地ですが、一度に数社の債権者に対して申立てをする場合には、その中の一社が属する管轄裁判所にまとめて申立てることができます。申立書類を提出後約1ヶ月以内に、呼び出し状が届きます。裁判所は、第1回期日までに債権者から取引履歴と利息制限法に引きなおした債権額を提出させます。申立人は第1回期日に調停委員から、生活状況や家計、収入などについて聞かれます。伝えておきたいことや希望を前もって準備しておくとよいでしょう。第2回期日には調停条項案を作成、各債権者に提示します。
参考URL
http://www.courts.go.jp/kanazawa/saiban/tetuzuki/tokutei.html
http://www.courts.go.jp/kagoshima/saiban/tetuzuki/tokuteityotei.html
6. 特定調停を申立てても、相手方に応じる姿勢がなく、裁判所に出頭もしてこない業者もあります。その場合、調停は不成立となります。そのような場合は、裁判所が民事調停法17条に基き、裁判所が職権で和解条項を作成します(17条決定)。しかし、この決定には、判決のような強制力がないので、債権者から異議があったときは失効します。その場合は、改めて債務額確定訴訟や債務不存在訴訟など訴訟を提起し、弁護士等に和解交渉を依頼し、任意整理を進めることになります。
7. 民事調停法第17条(調停に代わる決定)裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができる。この決定においては、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命ずることができる。第18条(異議の申立)前条の決定に対しては、当事者又は利害関係人は、異議の申立をすることができる。その期間は、当事者が決定の告知を受けた日から二週間とする。
2前項の期間内に異議の申立があつたときは、同項の決定は、その効力を失う。3第一項の期間内に異議の申立がないときは、同項の決定は、裁判上の和解と同一の効力を有する。
8. 調停が成立すると、裁判所が調停調書というものを作成します。調停調書は、判決と同じ効力がありますので、成立後に返済が滞ってしまった場合には、債権者は訴訟を提起することなく直ちに給与や財産を差し押さえることができてしまいます。これは、任意整理と大きく違う点です。過払い金が発生している場合には、原則として特定調停ではその回収まではできませんので、別途、不当利得返還請求訴訟を提起しなくてはいけません。また、特定調停は保証人には影響しないので、債務者本人が支払い不能になれば当然に保証人に請求がいきます。特定調停を申立てると、ブラックリストにのり、数年間借り入れができなくなるということも任意整理と同じです(ブラックリストについて事務所事例集NO711号参照)。借入期間や、債務の額、債権者の数によっては特定調停をおすすめできない場合もありますので、どのような方法を選択するかは、弁護士や司法書士に簡単に相談してみることをお勧めいたします。
9. 尚、私的債務整理にについて財産がある場合コンサルタントと称する事件、整理不法集団が介入しようとします。この手口は、必ず、「任意整理して債務は消滅し貴方に財産を残すことができます」という提案をしてきます。これを信じてはいけません。私的債務整理で生活費を除き残された私有財産を残す方法は基本的にありません。総債権者の同意なくして私有財産は残せませんし、通常総債権者が同意することはありありません。整理グループの目的はあなたの残余財産です。この提案を飲んだ時から貴方は逆に弱みを握られ、不法整理の共同責任を問われてその上、すべての残余資産を結果的に失います。私的整理は、債権者との信頼関係が重要です。債権者の権利放棄、譲歩を得て適正に更生したいのであれば資格を有する弁護士の介入は不可避でしょう。
≪条文参照≫
特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律(特定調停法)
(平成十一年十二月十七日法律第百五十八号)
最終改正:平成一五年七月二五日法律第一二八号
(目的)
第一条 この法律は、支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生に資するため、民事調停法
(昭和二十六年法律第二百二十二号)の特例として特定調停の手続を定めることにより、このような債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を促進することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「特定債務者」とは、金銭債務を負っている者であって、支払不能に陥るおそれのあるもの若しくは事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるもの又は債務超過に陥るおそれのある法人をいう。
2 この法律において「特定債務等の調整」とは、特定債務者及びこれに対して金銭債権を有する者その他の利害関係人の間における金銭債務の内容の変更、担保関係の変更その他の金銭債務に係る利害関係の調整であって、当該特定債務者の経済的再生に資するためのものをいう。
3 この法律において「特定調停」とは、特定債務者が民事調停法第二条
の規定により申し立てる特定債務等の調整に係る調停であって、当該調停の申立ての際に次条第一項の規定により特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述があったものをいう。
4 この法律において「関係権利者」とは、特定債務者に対して財産上の請求権を有する者及び特定債務者の財産の上に担保権を有する者をいう。
(特定調停手続)
第三条 特定債務者は、特定債務等の調整に係る調停の申立てをするときは、特定調停手続により調停を行うことを求めることができる。
2 特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述は、調停の申立ての際にしなければならない。
3 前項の申述をする申立人は、申立てと同時に(やむを得ない理由がある場合にあっては、申立ての後遅滞なく)、財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料及び関係権利者の一覧表を提出しなければならない。
(移送等)
第四条 裁判所は、民事調停法第四条第一項
ただし書の規定にかかわらず、その管轄に属しない特定調停に係る事件について申立てを受けた場合において、事件を処理するために適当であると認めるときは、土地管轄の規定にかかわらず、事件を他の管轄裁判所に移送し、又は自ら処理することができる。
第五条 簡易裁判所は、特定調停に係る事件がその管轄に属する場合においても、事件を処理するために相当であると認めるときは、申立てにより又は職権で、事件をその所在地を管轄する地方裁判所に移送することができる。
(併合)
第六条 同一の申立人に係る複数の特定調停に係る事件が同一の裁判所に各別に係属するときは、これらの事件に係る調停手続は、できる限り、併合して行わなければならない。
(民事執行手続の停止)
第七条 特定調停に係る事件の係属する裁判所は、事件を特定調停によって解決することが相当であると認める場合において、特定調停の成立を不能にし若しくは著しく困難にするおそれがあるとき、又は特定調停の円滑な進行を妨げるおそれがあるときは、申立てにより、特定調停が終了するまでの間、担保を立てさせて、又は立てさせないで、特定調停の目的となった権利に関する民事執行の手続の停止を命ずることができる。ただし、給料、賃金、賞与、退職手当及び退職年金並びにこれらの性質を有する給与に係る債権に基づく民事執行の手続については、この限りでない。
2 前項の裁判所は、同項の規定により民事執行の手続の停止を命じた場合において、必要があると認めるときは、申立てにより、担保を立てさせて、又は立てさせないで、その続行を命ずることができる。
3 前二項の申立てをするには、その理由を疎明しなければならない。
4 民事訴訟法 (平成八年法律第百九号)第七十六条
、第七十七条、第七十九条及び第八十条の規定は、第一項及び第二項の担保について準用する。
(民事調停委員の指定)
第八条 裁判所は、特定調停を行う調停委員会を組織する民事調停委員として、事案の性質に応じて必要な法律、税務、金融、企業の財務、資産の評価等に関する専門的な知識経験を有する者を指定するものとする。
(関係権利者の参加)
第九条 特定調停の結果について利害関係を有する関係権利者が特定調停手続に参加する場合には、民事調停法第十一条第一項
の規定にかかわらず、調停委員会の許可を受けることを要しない。
(当事者の責務)
第十条 特定調停においては、当事者は、調停委員会に対し、債権又は債務の発生原因及び内容、弁済等による債権又は債務の内容の変更及び担保関係の変更等に関する事実を明らかにしなければならない。
(特定調停をしない場合)
第十一条 特定調停においては、調停委員会は、民事調停法第十三条
に規定する場合のほか、申立人が特定債務者であるとは認められないとき、又は事件が性質上特定調停をするのに適当でないと認めるときは、特定調停をしないものとして、事件を終了させることができる。
(文書等の提出)
第十二条 調停委員会は、特定調停のために特に必要があると認めるときは、当事者又は参加人に対し、事件に関係のある文書又は物件の提出を求めることができる。
(職権調査)
第十三条 調停委員会は、特定調停を行うに当たり、職権で、事実の調査及び必要であると認める証拠調べをすることができる。
(官庁等からの意見聴取)
第十四条 調停委員会は、特定調停のために必要があると認めるときは、官庁、公署その他適当であると認める者に対し、意見を求めることができる。
2 調停委員会は、法人の申立てに係る事件について特定調停をしようとするときは、当該申立人の使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、当該申立人の使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合がないときは当該申立人の使用人その他の従業者の過半数を代表する者の意見を求めるものとする。
(調停委員会が提示する調停条項案)
第十五条 調停委員会が特定調停に係る事件の当事者に対し調停条項案を提示する場合には、当該調停条項案は、特定債務者の経済的再生に資するとの観点から、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものでなければならない。
(調停条項案の書面による受諾)
第十六条 特定調停に係る事件の当事者が遠隔の地に居住していることその他の事由により出頭することが困難であると認められる場合において、その当事者があらかじめ調停委員会から提示された調停条項案を受諾する旨の書面を提出し、他の当事者が期日に出頭してその調停条項案を受諾したときは、特定調停において当事者間に合意が成立したものとみなす。
(調停委員会が定める調停条項)
第十七条 特定調停においては、調停委員会は、当事者の共同の申立てがあるときは、事件の解決のために適当な調停条項を定めることができる。
2 前項の調停条項は、特定債務者の経済的再生に資するとの観点から、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものでなければならない。
3 第一項の申立ては、書面でしなければならない。この場合においては、その書面に同項の調停条項に服する旨を記載しなければならない。
4 第一項の規定による調停条項の定めは、期日における告知その他相当と認める方法による告知によってする。
5 当事者は、前項の告知前に限り、第一項の申立てを取り下げることができる。この場合においては、相手方の同意を得ることを要しない。
6 第四項の告知が当事者双方にされたときは、特定調停において当事者間に合意が成立したものとみなす。
(特定調停の不成立)
第十八条 特定調停においては、調停委員会は、民事調停法第十四条
の規定にかかわらず、特定債務者の経済的再生に資するとの観点から、当事者間に公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容の合意が成立する見込みがない場合又は成立した合意が公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものであるとは認められない場合において、裁判所が同法第十七条
の決定をしないときは、特定調停が成立しないものとして、事件を終了させることができる。
2 民事調停法第十九条 の規定は、前項の規定により事件が終了した場合について準用する。
(裁判官の特定調停への準用)
第十九条 第九条から前条までの規定は、裁判官だけで特定調停を行う場合について準用する。
(特定調停に代わる決定への準用)
第二十条 第十七条第二項の規定は、特定調停に係る事件に関し裁判所がする民事調停法第十七条
の決定について準用する。
(即時抗告)
第二十一条 第四条の規定による移送の裁判、第五条の規定による裁判、第七条第一項及び第二項の規定による裁判並びに第二十四条第一項の過料の裁判に対しては、その告知を受けた日から二週間の不変期間内に、即時抗告をすることができる。
2 第四条の規定による移送の裁判、第五条の規定による裁判及び第二十四条第一項の過料の裁判に対する即時抗告は、執行停止の効力を有する。
(民事調停法 との関係)
第二十二条 特定調停については、この法律に定めるもののほか、民事調停法
の定めるところによる。
(最高裁判所規則)
第二十三条 この法律に定めるもののほか、特定調停に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
(文書等の不提出に対する制裁)
第二十四条 当事者又は参加人が正当な理由なく第十二条(第十九条において準用する場合を含む。)の規定による文書又は物件の提出の要求に応じないときは、裁判所は、十万円以下の過料に処する。
2 民事調停法第三十六条 の規定は、前項の過料の裁判について準用する
会社更生法
(更生計画案の可決の要件)
第百九十六条 更生計画案の決議は、第百六十八条第一項各号に掲げる種類の権利又は次項の規定により定められた種類の権利を有する者に分かれて行う。
2 裁判所は、相当と認めるときは、二以上の第百六十八条第一項各号に掲げる種類の権利を一の種類の権利とし、又は一の当該各号に掲げる種類の権利を二以上の種類の権利とすることができる。ただし、更生債権、更生担保権又は株式は、それぞれ別の種類の権利としなければならない。
3 裁判所は、更生計画案を決議に付する旨の決定をするまでは、前項本文の決定を変更し、又は取り消すことができる。
4 前二項の規定による決定があった場合には、その裁判書を議決権者に送達しなければならない。ただし、関係人集会の期日において当該決定の言渡しがあったときは、この限りでない。
5 更生計画案を可決するには、第一項に規定する種類の権利ごとに、当該権利についての次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める者の同意がなければならない。
一 更生債権 議決権を行使することができる更生債権者の議決権の総額の二分の一を超える議決権を有する者
二 更生担保権 次のイからハまでに掲げる区分に応じ、当該イからハまでに定める者
イ 更生担保権の期限の猶予の定めをする更生計画案 議決権を行使することができる更生担保権者の議決権の総額の三分の二以上に当たる議決権を有する者
ロ 更生担保権の減免の定めその他期限の猶予以外の方法により更生担保権者の権利に影響を及ぼす定めをする更生計画案 議決権を行使することができる更生担保権者の議決権の総額の四分の三以上に当たる議決権を有する者
ハ 更生会社の事業の全部の廃止を内容とする更生計画案 議決権を行使することができる更生担保権者の議決権の総額の十分の九以上に当たる議決権を有する者
三 株式 議決権を行使することができる株主の議決権の総数の過半数に当たる議決権を有する者
民事再生法
(再生計画案の可決の要件)
第百七十二条の三 再生計画案を可決するには、次に掲げる同意のいずれもがなければならない。
一 議決権者(債権者集会に出席し、又は第百六十九条第二項第二号に規定する書面等投票をしたものに限る。)の過半数の同意
二 議決権者の議決権の総額の二分の一以上の議決権を有する者の同意
2 約定劣後再生債権の届出がある場合には、再生計画案の決議は、再生債権(約定劣後再生債権を除く。以下この条、第百七十二条の五第四項並びに第百七十四条の二第一項及び第二項において同じ。)を有する者と約定劣後再生債権を有する者とに分かれて行う。ただし、議決権を有する約定劣後再生債権を有する者がないときは、この限りでない。
3 裁判所は、前項本文に規定する場合であっても、相当と認めるときは、再生計画案の決議は再生債権を有する者と約定劣後再生債権を有する者とに分かれないで行うものとすることができる。
4 裁判所は、再生計画案を決議に付する旨の決定をするまでは、前項の決定を取り消すことができる。
5 前二項の規定による決定があった場合には、その裁判書を議決権者に送達しなければならない。ただし、債権者集会の期日において当該決定の言渡しがあったときは、この限りでない。
6 第一項の規定にかかわらず、第二項本文の規定により再生計画案の決議を再生債権を有する者と約定劣後再生債権を有する者とに分かれて行う場合において再生計画案を可決するには、再生債権を有する者と約定劣後再生債権を有する者の双方について第一項各号に掲げる同意のいずれもがなければならない。
7 第百七十二条第二項(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定によりその有する議決権の一部のみを再生計画案に同意するものとして行使した議決権者(その余の議決権を行使しなかったものを除く。)があるときの第一項第一号又は前項の規定の適用については、当該議決権者一人につき、同号に規定する議決権者の数に一を、再生計画案に同意する旨の議決権の行使をした議決権者の数に二分の一を、それぞれ加算するものとする。
民事調停規則
(訴訟手続の中止)
第五条 調停の申立てがあつた事件について訴訟が係属するとき、又は法第二十条第一項若しくは法第二十四条の二第二項の規定により訴訟事件が調停に付されたときは、受訴裁判所は、調停が終了するまで訴訟手続を中止することができる。ただし、訴訟事件について争点及び証拠の整理が完了した後において当事者の合意がない場合には、この限りでない。
(平四最裁規四・一部改正)
(民事執行の手続の停止)
第六条 調停事件の係属する裁判所は、紛争の実情により事件を調停によつて解決することが相当である場合において、調停の成立を不能にし又は著しく困難にするおそれがあるときは、申立てにより、担保を立てさせて、調停が終了するまで調停の目的となつた権利に関する民事執行の手続を停止することを命ずることができる。ただし、裁判及び調書その他裁判所において作成する書面の記載に基づく民事執行の手続については、この限りでない。
2 調停の係属する裁判所は、民事執行の手続を停止することを命じた場合において、必要があるときは、申立てにより、担保を立てさせ又は立てさせないで、これを続行することを命ずることができる。
3 前二項の申立をするには、その理由を疎明しなければならない。
4 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第七十六条、第七十七条、第七十九条及び第八十条の規定は、第一項及び第二項の担保について準用する。
5 第一項及び第二項の規定による決定に対しては、当事者は、即時抗告をすることができる。
(昭三三最裁規六・昭五五最裁規三・平八最裁規六・平一五最裁規一四・一部改正)