扶養義務について(最終改訂平成28年3月16日)
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民法第877条(扶養義務者)
第1項 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
第2項 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
この扶養義務の規定に基づき、親子、兄弟、親族間で、様々な扶養義務にまつわる法律問題が起こります。各論点を簡単にご紹介致しますので御参考になさって下さい。
【扶養義務者の範囲】
民法は,夫婦相互間と直系血族および兄弟姉妹は相互に扶養義務があると規定しています(752条,877条1項)。法律上,当然に扶養義務を負う規定のされ方から,これらの者の間における扶養義務は「絶対的扶養義務」といわれています。
このほか,家庭裁判所は,特別の事情があるときは,審判によって3親等内の親族間においても扶養義務を負わせることができると規定されています(877条2項)。前述の絶対的扶養義務に対して,この扶養義務は「相対的扶養義務」といわれています。
ご相談の事案では,扶養を要する本人(祖母)とあなたは直系血族にあたり,相手方(おじ,おば達)も本人との関係で直系血族にあたります。従って,上記の絶対的扶養義務者であり,家庭裁判所の審判を待つまでもなく,おじ,おば達も当然に祖母の扶養義務者であるといえます。
要扶養者のために既に支出した食費,医療費,介護費の分担の請求は,いわゆる過去の扶養料の求償であるといえ,民法所定の扶養義務者相互間において,そのうちの一部の者が負担した過去の扶養料について,他の扶養義務者に対して求償することは法的に可能と解されます(東京高裁昭和61年9月10日決定)。しかし,要扶養者のために支出した費用を絶対的義務者の人数で頭割して等分に負担することを前提に,負担部分を請求できるか,については問題があり,次に説明するように,判例では否定されています。
【具体的扶養義務の確定を先行させる必要性】
扶養義務者間の協議,家庭裁判所における調停または審判による具体的な扶養義務の内容が確定していない段階においては,民事訴訟によって過去の扶養料の求償を請求することはできないと解するのが最高裁判所の判例(最判昭和42年2月17日)です。そして,たとえ要扶養者が死亡し,支出の総額が確定した後の過去の扶養料の求償の場面についても,その論理は変わらないとして最高裁の立場を敷衍した下級審裁判例(東京地判平成6年1月17日)が出ています。
すなわち,「各人の抽象的な扶養義務については,扶養の必要性と扶養義務の履行可能性が認められれば,その成立を肯定できるとしても,各人の具体的な扶養義務の内容は,当事者の協議又は家庭裁判所の審判を待たなければ確定しないものである」としています。
そのため,具体的に確定した権利が存在していない以上,いくらいくらのお金を支払えという民事訴訟を起こして請求をしても,その請求を支える理由がないことになり,当該金銭請求は退けられてしまうことになります。
【民法が想定する扶養義務の具体的内容の確定方法】
この結論は,民法の規定の仕方からも至当な解釈ではないかと思います。民法は,扶養義務者・扶養権利者(要扶養者)が複数いる場合における扶養の順序や,同順位の義務者・権利者間の分担・割合,扶養の方法・程度についての実体的な規定は全く置かずに,第一に当事者間で協議し,協議が調わないか協議をすることができないときは家庭裁判所が定めることとしています(民法878条,879条,880条)。
その趣旨は,いわゆる身内の問題について,当事者間の自主自立的で自由な決定に委ねることを原則とするとともに,当事者の必要に応じて裁判所が関与することとし,裁判所が関与する場合にも,各権利者・義務者の資力・生活状況等あらゆる事情を考慮に入れて,裁判所の合理的裁量によって具体的に妥当な扶養義務の内容を決定することが相当だとしたものといえます。
【家事事件手続法の規定,扶養に関する家事審判の性質】
こうした民法の規定の仕方を受けて,家事事件手続法39条及び同法別表第一第八十四項(旧家事審判法9条1項乙類8号)は,扶養に関する処分を非訟事件たる審判事項としています。つまり,民法に扶養義務の規定があっても,当事者間の協議が成立する以前の段階では,当事者は相手方に対する具体的な実体法上の請求権がなく,協議が調わない場合も,家庭裁判所の調停・審判の手続を通じて具体的な権利義務関係を形成することを求める権利を有するだけであると解されます。
そして,家庭裁判所の審判も,元から存在する権利の存在を認定・確認する性質のものではなく,審判自体によって新たに権利義務関係を作り出すというものであるといえます。従って,要扶養者の子供達が絶対的扶養義務者であるとしても,要扶養者の面倒を見て扶養した者から,これらの子供達に対して人数割りの分担を求めることは,家事審判を経る前の段階においては,法的に具体的な権利とは言えず,「家事審判を申し立てして将来的に分担を求めることを期待しうる法的地位」,というような抽象的なものになると言えます。
【家庭裁判所に扶養に関する処分の申立て】
ここまで説明してきたとおり,個々の扶養義務者が果たすべき具体的な扶養義務の内容は,当事者の協議か家庭裁判所の調停・審判を通じて初めて具体的に形成されるものであって,それを経ることなく人数辺りのいわゆるワリカンで請求できる具体的権利は存在しないと解されます。
ですから,扶養について問題のあるときは,家庭裁判所に扶養に関する処分の申立てをする必要があると考えるべきです。具体的には、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に扶養請求調停の申し立てをすることになります。
※参考URL、裁判所の扶養調停案内
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_07_11/
家事審判においては,具体的な扶養義務の形成・確定をするにあたって,各権利者・義務者の資力・生活状況等あらゆる事情が考慮されます。何か特定の事項さえ備えていれば自分の主張が認められるというような単純明快な判断基準ではありません。何をどう主張して,どのような資料で裁判所を説得すべきかが重要ですから,弁護士に依頼して臨むことをお勧めします。
【反対の学説,下級審裁判例】
なお,現在または将来の扶養料の請求から分離した独立の純粋に過去の扶養料としての請求であれば,損害賠償,不当利得または事務管理の有益費償還請求などと構成して地方裁判所での民事訴訟による請求が可能とする学説もあり,前掲の最高裁判例(最判昭和42年2月17日)の後にも上記学説に沿う下級審裁判例(大阪高判昭和43年10月28日)も出ているようです。
しかし,扶養に関する権利義務及びその具体的内容は,非訟手続によって形成・確定されるということからすれば,過去の扶養料だけの問題であっても,要扶養者が既に死亡していて将来の扶養の問題が生じない場合であっても,同じように扱うべきだとする方が筋が通っているものと思います。
【遺産分割手続における解決方法】
被扶養者が既に亡くなっている場合で,土地建物などの相続財産が遺されている場合には,この遺産分割手続において,扶養負担を行ったことにより被相続人の財産の減少を防止したので自分には寄与分(民法904条の2第1項)がある,という主張を行うことにより,遺産分割手続の中で過去の扶養を斟酌するように求める手段も考えられます。
民法904条の2第1項 共同相続人中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし,第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
いずれにしても,どの程度の扶養負担を行ったのか,後日の主張の際に困らないように,家計簿や,生活費支出の領収書やレシートなどの資料はできる限り保管されておいた方が良いでしょう。資料を持参して,弁護士にご相談なさると良いでしょう。
【非扶養義務者から扶養義務者に対する立替金の請求方法】
神戸地裁昭和56年4月28日判決では,扶養義務者でない第三者が扶養料を立替払いした場合は,扶養義務者が連帯して立替扶養料全額の支払義務を負担し,扶養義務者相互間の求償は審判事項として家庭裁判所の専決権に属すると判示しています。
神戸地方裁判所昭和56年4月28日判決
『扶養義務者でない者が要扶養者を事実上扶養し、扶養料を支払つた場合においては、立替扶養料を不当利得或いは事務管理として扶養義務者の全員又は任意の一人に対して全額請求することができ、扶養義務者は連帯してその全額の支払義務を負担するものであり、扶養義務者相互間の求償は審判事項として家庭裁判所の専決権に属し、訴訟事件の対象になるものではないと解すべきである(最高裁判所昭和四二年二月一七日民集二一・一・一三三)。従つて、扶養義務者ではない原告が立て替えたYの扶養料は、不当利得として同人の扶養義務者の一人である被告に対して全額返還請求することができるものというべく、原告の妻EもYの扶養義務者であることを理由にその全部又は一部の支払を免れ得るものではない。そして、被告が本件によつて原告に対して支払う立替扶養料(不当利得金)のEに対する求償及びEが負担したYの扶養料の被告に対する求償のいずれも審判事項として家庭裁判所による判断を求めるべきである。』
この判例は、扶養義務者の配偶者が立替払いした案件でしたが、非義務者が扶養料を負担した場合は、立替扶養料を不当利得或いは事務管理として、扶養義務者の一部または全員に対して、全額請求することができると端的に判断しています。なお、扶養義務者間の費用負担の割合や方法については、審判事項であるので家庭裁判所の審理に任せられるべきとされています。
この不当利得返還請求や、事務管理に基づく費用償還請求の手続きにおいて必要となる資料を列挙しますので参考にして下さい。
まず、支出した費用について、合計額を主張立証するための資料として、各種領収書が必要です。住居費を証明するために、賃貸契約書、家賃支払い明細書、住宅ローンの残高証明書、住宅ローンの支払い明細書。義母さまの病院の診療報酬明細書。義母さまの生活に必要な飲食費、日用品の領収書。通常の生活では保存しないような領収書でも、後日の清算のためには必要となってくることがありますので注意深く保存なさることをお勧め致します。