「再開発の準備組合に加入して下さい」「都市計画への同意書にサインして下さい」
「物件調書を作成しますので同意書にサインして下さい」「あなたの物件の権利変換率・還元率は65パーセントです」
と言われた場合の対策を御案内致します。都市再開発法の条文を良く検討する必要があります。再開発の具体例はこちらを参照して下さい。 借家人の保護についてはこちらを御参照下さい。
概論:
第一種市街地再開発事業は、従前建物の耐震性や耐火性を高め、公共施設や商業施設などの利便性を高めるために、都市計画決定を経た上で、区域内の地権者5名以上で、区域内の宅地所有者及び借地権者の3分の2以上(面積及び人数)の同意により、市街地再開発組合を設立し、権利変換計画を定め、従来の土地建物の権利を、新しい建物の敷地権と区分所有権に変換させて、円滑に建て替えを進める事業です。
市街地再開発事業は、不燃建物率の向上や、建物の耐震性強化による住民の安全性向上という、各自治体の行政目的にも合致するメリットがありますので、通常、都市計画決定を経ることにより、容積率の向上というボーナスを受けることができます。また、調査設計費や共同施設整備費など、事業費の一部について、国や地方自治体の補助金を得ることもできます。
再開発事業における還元率というのは、従前土地建物所有者が現に有している床面積と、権利変換手続により与えられる床面積の割合を指す数字です。還元率が100パーセントであれば、従来の床面積と、権利変換後の床面積が同程度ということになりますし、還元率80パーセントであれば、権利変換後の床面積は2割程度減少するということになります。また、還元率120パーセントであれば、床面積が2割程度増加することになります。この権利変換後の床面積の割合を、還元率、権利変換比率、権利変換率と呼びます。古い建物が建築費無償で建て替えできるのだから、平米単価が上がるので、床面積は3割程減ってしまう、というような説明がなされることも多いようです。
還元率の計算は、要するに、参加組合員に譲渡する床面積(保留床)を床面積あたりの価格で乗じた金額に、国や地方自治体からの費用援助を加算した金額が、総事業費(調査、設計、取り壊し、建築費用)と等しくなりますので、デベロッパーの企画力や保留床(デベロッパーが取得する床面積)の販売力や建設会社との契約条件などにより大きく上下することになります。当然ながら、この数字を、都市計画決定を経る前の段階で算出することはできませんので、参加組合員を選定する際には、還元率の目安を見積もりさせて、選定していくことになります。これは、事実上保留床の売買交渉と同じ事になりますので、再開発準備組合の理事会の皆さんは、それぞれ不動産業とは関係無い御仕事をされておられるかもしれませんが、不動産や再開発事業について勉強され、デベロッパーとの合意(契約)条件が有利になるように交渉する必要があります。
利益が相反するデベロッパー側(参加組合員)に権利を主張できないようであれば、専門家である弁護士等に相談し適正な組合員の利益を確保する必要があります。参加組合員側は、還元率等の利益確保のため専門的方法を用意しており知識を有しない組合員、理事会の懐柔策(例えば、協力的理事にのみ事実上有利な権利変換案、建築期間中の補償案を提示する等が考えられる)も準備していますので周到な対策が必要です。都市再開発法97条の損失補償について詳細な主張を行う対策も考えることができます。
解説:
都市再開発事業には、地方公共団体や都市再生機構が施行する公共性の高い第二種市街地再開発事業(管理処分方式)と、一般の地権者も施行することができる、第一種市街地再開発事業(権利変換方式)があります。御相談のようなケースはほとんどが、第一種市街地再開発事業です。
第一種市街地再開発事業は、都市再開発法で定められた、権利変換方式を用いる再開発(建て替え)の手法です。ちなみに、第二種市街地再開発事業は、管理処分方式(用地買収方式)と言って、公共性の高い事業について、地方自治体などが主体となり、区域内の権利を全て取得し、その上で希望者に再入居させて、再開発を進める方式です。
第一種再開発事業は、従前建物の耐震性や耐火性を高め、商業施設などの利便性を高めるために、都市計画決定を経た上で、区域内の地権者5名以上で、区域内の宅地所有者及び借地権者の3分の2以上(面積及び人数)の同意により、組合を設立し、権利変換計画を定め、従来の土地建物の権利を、新しい建物の敷地権と区分所有権に変換させて、円滑に建て替えを進めるための事業です。
権利変換とは、組合が定めた計画を都道府県知事や国土交通大臣が認可した場合に、権利変換期日に次の(1)〜(4)の効力が生じるものです。建物は一旦組合に権利が移行しますが、建物除却及び再建築を経て、新しい建物の権利は、権利変換計画に定められた者が新たに取得することができます(都市再開発法73条1項2号)。
(1)施行区域内の土地は、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する(都市再開発法87条1項前段)。
(2)従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条1項後段)。
(3)施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者(組合)に帰属する(都市再開発法87条2項前段)。
(4)当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条2項後段)。
面積と人数で3分の2以上という多数の意思形成は必要ですが、逆に言えば、区域住民の大多数が同意できるような計画を提示できれば、多少の反対があっても事業を進めることができるように法令が整備されています。
都市再開発法第14条(宅地の所有者及び借地権者の同意)
第1項 第十一条第一項又は第二項の規定による認可を申請しようとする者は、組合の設立について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない。この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者のその区域内の借地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の三分の二以上でなければならない。
※国土交通省HPより、第1種再開発事業のフローチャート
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/seido/06sigaichisai.html
※国土交通省HPより、第2種再開発事業のフローチャート
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/seido/06sigaichisai.html
再開発事業には、不燃建物率の向上や、建物の耐震性強化による住民の安全性向上という、各自治体の行政目的にも合致するメリットがありますので、再開発事業では、通常、都市計画決定を経ることにより、容積率の向上というボーナスを受けることができるのが通例です。
平成20年から平成24年前に行われた事業完了地区97地区の平均容積率は89パーセントから586パーセントに約6.6倍上昇し、不燃建物率も39パーセントから100パーセントへと大幅に上昇しています(公益社団法人全国市街地再開発協会調べ)。
参考URL、全国市街地再開発協会パンフレット「あなたのまちがここから変わる」
http://www.uraja.or.jp/town/pamphlet/doc/pamphlet03.zip
調査設計費や共同施設整備費など、事業費の一部について、国や地方自治体の補助金を得ることもできます。
※参考URL、東京都都市整備局の東京都再開発等促進区を定める地区計画運用基準
http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/seisaku/new_ctiy/pdf/sai_tiku-kaitei2703.pdf
東京都の再開発促進区を定める地区計画運用基準によれば、再開発の計画容積率は、次の構成により算出されることになります。この運用基準に沿った企画を提案すれば、都市計画審議会の決議を経て、容積率の割増しを受ける可能性が高くなります。
計画容積率 ≦ 見直し相当容積率 + 評価容積率 となります。
それぞれの用語の説明は次の通りです。前述の通り、従来の容積率の5倍以上もの計画容積率とすることができる可能性があるのです。
指定容積率(%) ⇒ 用途地域に関する都市計画に定められている容積率
(区域内等の指定容積率が、2以上の異なる容積率にわたる場合は、加重平均容積率)
見直し相当容積率(%) ⇒ 再開発、開発整備などによる土地利用転換や公共施設整備後、将来見直すことを想定した場合の指定容積率。
計画容積率(%) ⇒ 地区整備計画で定める「建築物の容積率の最高限度」
評価容積率(%) ⇒ 地区計画の区域内及び周辺市街地環境の整備、改善等に資する貢献内容や建築計画などの優良性を評価して設定する容積率
見直し相当容積率は、当該区域の都市構造上の位置付け、土地の高度利用や都市機能の増進への貢献度、都心居住の推進や業務商業機能の開発、整備及び育成への寄与度などを勘案して、「用途地域等に関する指定方針及び指定基準(平成14年7月:東京都)」に基づき設定されます。その際、見直し相当用途地域及び見直し相当容積率は、計画区域又は周辺地域の骨格的な都市基盤施設等の整備状況などを勘案して、次の(1)から(3)までの内容を総合的に評価し設定されます。
(1)都市構造上の位置付けの評価
基本計画等の位置付けなどを考慮し、用途地域及び容積率を総合的に評価する。
(2)骨格的な都市基盤施設(都市計画施設)の評価
地区計画により骨格的な都市基盤施設を整備する場合又は既に完成された施設で開発規模などに応じた必要な対策が講じられている場合は、内容、貢献度などを総合的に評価する。
(3) 主要な公共施設及び地区施設の評価
土地利用転換後に必要な施設であることから、見直し相当容積率で評価することが原則とされます。つまり、公共施設を建設するのに必要な容積率は割増しを受けることができる可能性が高いということです。
評価容積率は、原則として、地区整備計画の区域の区分された地区ごとに、再開発等の計画内容が当該区域及び周辺市街地の開発、整備に貢献する度合いなどを勘案し、次の(1)から(5)
までの内容を総合的に評価して評価容積率が設定されます。
(1)有効空地の計画の評価
計画建築物の敷地内に設ける有効空地は、その形態、規模、配置、機能などにより、その実面積に有効係数を乗じて得た、有効空地面積に相当する面積や緑化の取組を勘案して、評価容積率を設定する。
(2)区域環境の整備、改善及び向上に資する施設計画の評価
区域環境の整備、改善及び向上に資する施設計画で、次のアからウまでに掲げるものについて、計画内容及び整備水準に応じた評価が行われます。
ア 区域の交通環境の整備、改善等に資する施設の計画
公共駐車場、バスロータリーなど、交通補完施設等におけるその計画施設面積の敷地面積に対する割合を勘案した評価容積率を設定することができる。
イ 区域の供給処理機能の整備、改善等に資する施設の計画
貯水槽、ゴミ中間施設、自家発電施設など、供給処理施設等におけるその計画施設面積の敷地面積に対する割合を勘案した評価容積率を設定することができる。
ウ 災害に強いまちづくりへ貢献する施設の計画
防災貯水槽、防災備蓄倉庫、巡査派出所(いわゆる交番)など保安施設等におけるその計画施設面積の敷地面積に対する割合を勘案した評価容積率を設定することができる。
(3)地域の育成及び整備に貢献する施設計画の評価
都心居住の推進につながる住宅の供給など、地域の育成及び整備に貢献する施設を導入する計画で、次のアからウまでのものについては、計画内容及び施設の整備水準に応じて評価されます。
ア 住宅の供給の促進に寄与する施設の計画
下記のエリア内で計画された、住宅の用に供する床面積のうち容積対象部分の面積を評価の対象とすることができる。評価容積率については、それぞれ次に定めるところによる。
(ア) センター・コア・エリア内で「都市開発諸制度活用方針」で位置付けられた「都心等拠点地区」以外において住宅を設ける場合
住宅床面積のうち容積対象部分の面積÷敷地面積×100%×1.0
(イ) センター・コア・エリア外で、かつ、環状七号線に囲まれた地域内において延べ面積の2/3以上の住宅を設ける場合
住宅床面積のうち容積対象部分の面積÷敷地面積×100%×0.8
イ 文化、教育等及び地域社会のコミュニティの向上に貢献する施設の計画
地域コミュニティ施設等を計画するものに、次式で得られた値を評価容積率として適用することができる。地域コミュニティ施設等の床面積の5割を評価容積率として加算できるということです。
地域コミュニティ施設等の床面積÷敷地面積×100%×0.5
ウ 福祉の向上に資する施設の計画
福祉施設等を計画するものに、次式で得られた値を評価容積率として適用することができる。つまり、福祉施設等の床面積の6割を評価容積率として加算できるということです。
福祉施設等の床面積÷敷地面積×100%×0.6
エ 子育て支援のために必要な施設の計画
子育て支援施設を計画するものに、次式で得られた値を評価容積率として適用することができる。つまり、子育て支援施設の床面積を評価容積率として加算できるということです。
子育て支援施設の床面積÷敷地面積×100%×1.0
オ 高齢者福祉の向上に資する施設の計画
高齢者福祉施設を計画するものに、次式で得られた値を評価容積率として適用することができる。つまり高齢者福祉施設の床面積を評価容積率として加算できるということです。
高齢者福祉施設の床面積÷敷地面積×100%×1.0
(4)歴史的、文化的環境の保全、整備に資する施設計画の評価
重要文化財指定建築物、歴史的建造物等の保存、修復など、歴史的、文化的環境の保全、整備に資する計画を行うものに評価容積率を設定することができる。当該建築物の重要性、規模、公開性など、地域への寄与度などを勘案した評価容積率を設定することができる。
(5) 地区基盤施設の評価
主要な公共施設及び地区施設については、見直し相当容積率における評価を原則とするが、整備水準等に応じて評価を行うことができる。
再開発事業における還元率というのは、従前土地建物所有者が現に有している床面積と、権利変換手続により与えられる床面積の割合を指す数字です。
還元率 = 権利変換後の床面積 ÷ 従来の床面積 × 100(パーセント)
還元率が100パーセントであれば、従来の床面積と、権利変換後の床面積が同程度ということになりますし、還元率80パーセントであれば、権利変換後の床面積は2割程度減少するということになります。また、還元率120パーセントであれば、床面積が2割程度増加することになります。
再開発事業では、様々な調査や設計を経て従前建物の取り壊しと整地と、新しい建物の建築費用が当然掛かることになりますが、一般的に、経済状態も様々な組合員から、一時金を徴収することは極めて困難なことになりますので、通常は、容積率の割増分を、参加組合委員である不動産デベロッパー業者に売却し、これと事業費を相殺することにより、資金の持ち出しが無くても建て替えできるような計画とするのが一般的です。この権利変換後の床面積の割合を、還元率、権利変換比率、権利変換率と呼びます。
これは正式な法令用語ではありませんが、床面積の増減を示す数字ですので、再開発にまつわる様々な書面や決議案などで使用される用語となります。この変換率は、通常、個別組合員の床面積ではなく、事業全体の床面積の比率で算出される数値となります。従って、組合設立時や、事業協力者選定決議時の議題には、事業計画全体の還元率が記載されることになります。
なお、「権利変換率」「権利変換比率」という言葉は、床面積の比率という意味で使われる場合のほか、権利変換を受ける地権者の割合(転出率と合わせて100パーセントとなる)や、従前資産の価額と権利変換後の総資産の価額の比率を指す意味で使われる場合もあります。後者の場合、当然ながら、従来の建物よりも、建て替え後の建物の方が価値が高くなりますので、権利変換率が100パーセントを超えていても、専有床面積は減少してしまう場合もありますので、注意が必要です。
還元率の計算は、要するに、参加組合員に譲渡する床面積(保留床)を床面積あたりの価格で乗じた金額に、国や地方自治体からの費用援助を加算した金額が、総事業費(調査、設計、取り壊し、建築費用)と等しくなりますので、デベロッパーの企画力や保留床(デベロッパーが取得する床面積)の販売力や建設会社との契約条件などにより大きく上下することになります。
都心近くの再開発事業においては、還元率100パーセントを超える事業も不可能ではありません。地権者にとっては、1円の支出をすることもなく、老朽化した建物を建て替えることができ、転居費用や転居期間の居住費まで保留床処分金から賄うことができるのです。ただ、新しい建物は一般に高層建物となることが多くなりますので、従前よりも管理費や修繕積立金が高額となってしまうことも多くなりますので注意が必要です。
総事業費 = 補助対象事業費 + 建設費用など補助対象外事業費(保留床処分金)
保留床処分金 = 保留床面積 × 保留床譲渡平米単価
権利床面積 = 計画床面積 − 保留床面積
還元率 = 権利床面積 ÷ 従前床面積 × 100(パーセント)
ここで、補助対象事業費は、調査設計計画費、土地整備費、共同施設整備費、防災性能強化費等で、国が3分の1、地方自治体が3分の1を補助しますので、再開発組合で3分の1を負担すれば事業遂行することができます。再開発組合に資金の余裕が無い場合は、組合負担分の3分の1についても、保留床処分金が充てられます。
当然ながら、この数字を、都市計画決定を経る前の段階で算出することはできませんので、参加組合員を選定する際には、還元率の目安を見積もりさせて、選定していくことになります。これは、事実上保留床の売買交渉と同じ事になりますので、再開発準備組合の理事会の皆さんは、それぞれ不動産業とは関係無い御仕事をされておられるかもしれませんが、不動産や再開発について勉強し、デベロッパーと契約条件が有利になるように交渉する必要があります。建設費の見積もりについても、過剰に高額に査定していないかどうか、注意が必要です。必要に応じて、建設費積算の根拠を開示するよう求めていくと良いでしょう。
事業計画案や、権利変換計画において、保留床面積を算出する際の保留床の平米単価の算出には注意を要します。この保留床譲渡平米単価は、参加組合員としては、現在の近隣不動産の平米単価を基準に算出しようとする傾向がありますが、大切なのは、再開発の計画が全て完成したときの分譲価格がどうなるかと言うことです。現在の(再開発前の)平米単価は全く参考にならないと言っても良いでしょう。公共施設や商業施設などが整備された新築ビルの平米単価がどうなるか予想し、そこから逆算して平米単価を算出するように交渉する必要があります。
保留床の床面積や譲渡価格は、再開発組合設立時の事業計画案の採択決議や、権利変換計画案の採択決議の中に織り込まれることになります。一般組合員としては、自分達の権利と、参加組合員の権利の間に不公平はないかどうか、良く精査していくことが必要です。自分達だけで決議案の内容を検討するのが困難な場合は、都市再開発事業に詳しい弁護士に相談しながら精査されると良いでしょう。
当事務所でも、無料電話法律相談03-3248-5791にて、都市再開発法関連の無料相談を受け付けしております。都市再開発の代理交渉事件については原則として着手金なしの成功報酬制にて弁護士委任契約を御提案することができますのでお気軽に御相談下さい。 以上
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