任意後見契約、任意代理契約、みまもり契約について(最終改訂平成24年10月4日)
お子さんがいらっしゃらないご夫婦から、一方が亡くなってしまった場合、残された配偶者をサポートするにはどうしたらよいか?という相談をいただく場合があります。アルツハイマー病や老人性痴呆症などで判断能力を喪失してしまった場合に、裁判所に申し立てする「法定後見制度」もありますが、通常、申し立てをするのは同居の親族です。同居の親族が居ない場合は、事前に、弁護士など信頼できる第三者との間で、任意後見契約、任意代理契約、みまもり契約を締結しておくことが必要です。また、事前に、ご夫婦の相続財産は、すべて配偶者に相続させるという遺言書の作成も必要です。
※配偶者への全財産相続の公正証書遺言作成
お子さんがいらっしゃらない方が亡くなった場合の法定相続分は、配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1となっております(民法900条3号)。配偶者の死後に兄弟に頼ることができないという場合は、ご夫婦で、相互に、自分が亡くなった場合は、すべての相続財産を配偶者に相続させる、という相続分の指定(民法902条1項)を行うことが必要です。この場合、兄弟姉妹から遺言の有効性を争われるおそれがありますので、公正証書遺言(民法969条)で作成すると良いでしょう。
※任意後見契約
1 (任意後見制度の意義)
(1)任意後見制度とは
任意後見制度とは,本人が契約の締結に必要な判断能力を有している間に,将来の精神上の障害により判断能力が不十分な状況における後見事務について任意後見人に代理権を付与する「任意後見契約」を締結することにより,家庭裁判所が選任する任意後見監督人の監督のもとで任意後見人による保護をうけることができるという制度です。成年後見人の主な職務は本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、財産を適正に管理し、必要な代理行為を行うことです。具体的には、不動産や預貯金の管理など、様々な金銭の支払いや受け取りを適正に管理していくことになります。
(2)任意後見契約とは
任意後見契約とは,委任者が,受任者に対し,精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し,その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって,任意後見監督人(任意後見契約に関する法律4条1項)が選任されたときからその効力を生ずる旨の定めのあるものです(同2条1号)。
本人の判断能力が衰えてきて、後見監督人が選任され、任意後見人による後見が開始した場合、成年後見人の月額基本報酬は2万円ですが、管理財産額が1000〜5000万円以下の場合は月額3〜4万円、管理財産額5000万円を超える場合は月額5〜6万円となっております。「成年後見人等の報酬額のめやす」を参照してください。
任意後見契約は、公証役場で公証人の面前で、公正証書の契約書として作成されます。公証役場の費用は、登記費用も含めて約2万円です。弁護士の費用は管理財産額により変わりますが、10万円以上となっています。
任意後見契約が締結されると、公証人から東京法務局の後見登録課に対して、任意後見契約締結の登記が嘱託され、「任意後見契約締結の登記」がなされることになります。登記後は、「(後見人の権限を確認するための)登記事項証明書」や「(本人の行為能力を確認するための)登記されていないことの証明書」を申請することができます。
(3)任意後見監督人とは
任意後見監督人は、任意後見人の代理権行使を監督し、これを定期的に家庭裁判所に報告する職務を行う者です(任意後見に関する法律7条)。緊急の必要がある場合や、任意後見人と本人の利害が対立する場合には、本人を代理することもできますし、必要な場合には、任意後見人の解任請求を申し立てる権限と義務を有します(同8条)。つまり、本人が依頼した任意成年後見人であっても、本人が判断能力を失った後に、本人の財産を毀損するような行為をしてしまうことが懸念されるので、これを防止するために、御目付け役として設置されている役職です。成年後見監督人人の月額基本報酬は、管理財産額が5000万円以下の場合は月額1〜2万円、管理財産額5000万円を超える場合は月額2万5千円〜3万円となっております。「成年後見人等の報酬額のめやす」を参照してください。
※任意代理契約
任意代理契約とは、個別の契約問題について、代理人を依頼することです。民法上の委任契約(民法643条)であり、委任者から受任者に対して委任状を交付し、受任者は、必要に応じて委任状を相手方に交付して、代理人業務を行うことになります。委任契約により、本人は、わずらわしい契約関係の手続きを代理人に依頼することができます。この契約は本人の判断能力に問題が無い場合に、締結・依頼することができます。費用は、毎月8000円以上で、委託する財産や契約の数が多い場合は協議して増額することになります。
※みまもり契約
みまもり契約とは、任意後見契約を締結した受任者と、本人の間で、月に1回以上電話連絡を行い、必要なときは面談して、後日必要となる手続きについて継続的に協議を行うことです。民法上の準委任契約(民法656条)であり、必要に応じて、家庭裁判所に対する任意後見人監督人選任申し立てに移行したり、任意代理契約に移行したりすることがあります。そのための相談や協議を継続的に行っていくことになります。費用は、毎月5000円で、別途出張などが発生する場合は実費費用が掛かることになります。
※残された配偶者をサポートする法的な準備のフローチャート
配偶者への全財産相続の公正証書遺言作成
↓
弁護士と任意後見契約の締結
任意後見契約公正証書作成(公証役場)
任意後見契約締結の登記(東京法務局後見登録課)
↓
(必要に応じて)みまもり契約締結または任意代理契約締結
定期的に連絡・相談したり、必要な代理人業務を行います。
↓
(本人の判断能力が衰えた場合)任意後見監督人の選任申し立て(家庭裁判所)
↓
任意後見人の代理権が発生し、後見事務が開始します。
任意後見人が、ご本人を代理して、不動産業者や銀行や老人ホームなどとの折衝を行います。
≪参照条文≫
<任意後見契約に関する法律>
(趣旨)
第一条 この法律は、任意後見契約の方式、効力等に関し特別の定めをするとともに、任意後見人に対する監督に関し必要な事項を定めるものとする。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号の定めるところによる。
一 任意後見契約 委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいう。
二 本人 任意後見契約の委任者をいう。
三 任意後見受任者 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前における任意後見契約の受任者をいう。
四 任意後見人 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後における任意後見契約の受任者をいう。
(任意後見契約の方式)
第三条 任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。
(任意後見監督人の選任)
第四条 任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 本人が未成年者であるとき。
二 本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。
三 任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
イ 民法 (明治二十九年法律第八十九号)第八百四十七条
各号(第四号を除く。)に掲げる者
ロ 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
ハ 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
2 前項の規定により任意後見監督人を選任する場合において、本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、当該本人に係る後見開始、保佐開始又は補助開始の審判(以下「後見開始の審判等」と総称する。)を取り消さなければならない。
3 第一項の規定により本人以外の者の請求により任意後見監督人を選任するには、あらかじめ本人の同意がなければならない。ただし、本人がその意思を表示することができないときは、この限りでない。
4 任意後見監督人が欠けた場合には、家庭裁判所は、本人、その親族若しくは任意後見人の請求により、又は職権で、任意後見監督人を選任する。
5 任意後見監督人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に掲げる者の請求により、又は職権で、更に任意後見監督人を選任することができる。
(任意後見監督人の欠格事由)
第五条 任意後見受任者又は任意後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は、任意後見監督人となることができない。
(本人の意思の尊重等)
第六条 任意後見人は、第二条第一号に規定する委託に係る事務(以下「任意後見人の事務」という。)を行うに当たっては、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
(任意後見監督人の職務等)
第七条 任意後見監督人の職務は、次のとおりとする。
一 任意後見人の事務を監督すること。
二 任意後見人の事務に関し、家庭裁判所に定期的に報告をすること。
三 急迫の事情がある場合に、任意後見人の代理権の範囲内において、必要な処分をすること。
四 任意後見人又はその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人を代表すること。
2 任意後見監督人は、いつでも、任意後見人に対し任意後見人の事務の報告を求め、又は任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況を調査することができる。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、任意後見監督人に対し、任意後見人の事務に関する報告を求め、任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況の調査を命じ、その他任意後見監督人の職務について必要な処分を命ずることができる。
4 民法第六百四十四条 、第六百五十四条、第六百五十五条、第八百四十三条第四項、第八百四十四条、第八百四十六条、第八百四十七条、第八百五十九条の二、第八百六十一条第二項及び第八百六十二条の規定は、任意後見監督人について準用する。
(任意後見人の解任)
第八条 任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、その親族又は検察官の請求により、任意後見人を解任することができる。
(任意後見契約の解除)
第九条 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる。
2 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後においては、本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができる。
(後見、保佐及び補助との関係)
第十条 任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
2 前項の場合における後見開始の審判等の請求は、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人もすることができる。
3 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後において本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了する。
(任意後見人の代理権の消滅の対抗要件)
第十一条 任意後見人の代理権の消滅は、登記をしなければ、善意の第三者に対抗することができない。
(家事審判法 の適用)
第十二条 家事審判法 (昭和二十二年法律第百五十二号)の適用に関しては、第四条第一項、第四項及び第五項の規定による任意後見監督人の選任、同条第二項の規定による後見開始の審判等の取消し、第七条第三項の規定による報告の徴収、調査命令その他任意後見監督人の職務に関する処分、同条第四項において準用する民法第八百四十四条
、第八百四十六条、第八百五十九条の二第一項及び第二項並びに第八百六十二条の規定による任意後見監督人の辞任についての許可、任意後見監督人の解任、任意後見監督人が数人ある場合におけるその権限の行使についての定め及びその取消し並びに任意後見監督人に対する報酬の付与、第八条の規定による任意後見人の解任並びに第九条第二項の規定による任意後見契約の解除についての許可は、家事審判法第九条第一項
甲類に掲げる事項とみなす。
(最高裁判所規則)
第十三条 この法律に定めるもののほか、任意後見契約に関する審判の手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
<民法>
(成年被後見人及び成年後見人)
第八条 後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。
(成年被後見人の法律行為)
第九条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
(委任)
第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
(受任者の注意義務)
第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
(委任の終了事由)
第六百五十三条 委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。
(準委任)
第六百五十六条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
(後見人の欠格事由)
第八百四十七条 次に掲げる者は、後見人となることができない。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五 行方の知れない者
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
(代襲相続人の相続分)
第九百一条 第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
2項 前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
(遺言による相続分の指定)
第九百二条 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
2項 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。
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