公布(こうふ)、施行(せこう・しこう)(最終改訂、平成25年12月23日)
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公布とは、成立した法令を一般に周知させる目的で当該法令を公示する行為のことをいいます。憲法改正、法律、政令、条約については、内閣の助言と承認により、天皇が国事行為として公布することとされています(憲法7条1号)。
公布の方法は、どのようにして行うかについての規定は、現在、定められておらず、官報に掲載する方法で行うのが慣例となっています。官報というのは、国の機関紙で、休日を除いて毎日発行されています。蛇足ですが、現在の官報の題字は、官報発刊当時(明治16年7月2日)太政大臣であった三条実美によって書かれたものです。近代国家建設を成し遂げつつある自信に満ちた落ち着いた筆致です。
公布の方法についての判例が存在しますので、ご紹介します。最大判昭和32年12月28日刑集11巻14号3461頁です。
「成文の法令が一般的に国民に対し現実にその拘束力を発動する(施行せられる)ためには、その法令の内容が一般国民の知りうべき状態に置かれることが前提要件とせられるのであつて、このことは、近代民主国家における法治主義の要請からいつて、まさにかくあるべきことといわなければならない。」
「法令の公布は従前通り、官報をもつてせられるものと解するのが相当であつて、たとえ事実上法令の内容が一般国民の知りうる状態におかれえたとしても、いまだ法令の公布があつたとすることはできない。」と判示しています。
これは、公務員の争議行為を禁止した「政令201号」に違反して争議行為の指示をしたとして起訴された公務員に関する事件でした。政令201号が官報に掲載されたのは、昭和23年8月2日であったのに対して、争議行為の指示をしたのは官報掲載前の同年7月31日のことでした。当時の検察官は、それまで法令は官報で行うと定めていた公式例という法律が、昭和22年5月3日に既に廃止されていたことを根拠として、法令の公布は官報への掲載でなくとも良く、昭和23年7月31日にラジオ放送によって国民に周知されており、この時点で公布・施行があったとして、当該公務員を起訴をしました。しかし、最高裁は、法令の公布は官報によって行う必要があり、したがって、当該公務員の争議行為の指示の時点においては公布がされておらず、無罪であるとの判決をしたのでした。
また、これとは別の判例ですが、「刑罰法令が公布と同時に施行されてその法令に規定された行為の違法を認識する暇がなかつたとしても犯罪の成立を妨げるものではない。」(最判昭和26年1月30日刑集5巻2号374頁)と判示したものもあります。
公布の時期が問題となったものとして、最判昭和33年10月15日刑集12巻14号3313頁があります。
「右官報(筆者注:本件で問題となった改正覚せい剤取締法が掲載された官報)が全国の各官報販売所に到達する時点、販売所から直接に又は取次店を経て間接に購読予約者に配送される時点及び官報販売所又は印刷局官報課で、一般の希望者に官報を閲覧せしめ又は一部売する時点はそれぞれ異なつていたが、当時一般の希望者が右官報を閲覧し又は購読しようとすればそれをなし得た最初の場所は、印刷局官報課又は東京官報販売所であり、その最初の時点は右二ケ所とも同日午前八時三〇分であつたことは明らかである。
以上の事実関係の下においては、本件改正法律は、おそくとも、同日午前八時三〇分までには、……いわゆる「一般国民の知り得べき状態に置かれ」たもの、すなわち公布されたものと解すべきである」(最判昭和33年10月15日刑集12巻14号3313頁)と判示しました。
これは、「覚せい剤取締法の一部を改正する法律」が、昭和29年6月12日に公布され、同時に施行されていましたが、ちょうどその同じ日の午前9時ごろ、広島市内にて、覚せい剤を不法に所持している人がおり、逮捕・起訴された事件に関するものでした。改正される前においては、覚せい剤の所持の刑罰は、「懲役3年以下又は5万円以下の罰金」と定められていましたが、改正法により、「懲役5年以下又は10万円以下の罰金」と重いものへと改められたものでした(なお、現行法(平成25年12月17日現在)においては、さらに重く、「懲役10年以下」となっています(覚せい剤取締法40条の2、1項)。)。被告人は、広島市において、当時の改正覚せい剤取締法が掲載された官報を購入できたのは、翌日である13日であり、犯行当時においては公布・施行はされてはおらず、改正前の軽い刑罰の方が適用されるべきだと主張しました。しかし、最高裁は、国民が官報を最初に閲覧・購入できる状態になった時に公布があった、つまり、広島では購入できなかったかもしれないが、東京ではもう購入できる状態になっているのだから、このときに一般国民が知ることのできる状態に置かれたのだ、公布がされたのだ、として、改正後の重い刑罰が適用されるとの判断を示したのでした。
施行とは、成立した法令の効力を発生させることをいいます。
この「施行」は、「しこう」、「せこう」のどちらで読んでも構いませんが、法律用語としての「施行」は、「執行」(しっこう)と区別するために、「せこう」と読む慣例があります。ただ、「施工」という言葉もあり、報道機関では、「施行」は「しこう」と、「施工」は「せこう」と読み分けているようです。
法律の場合は、原則として、公布の日から起算して20日を経過した日から施行されることとなっています(法の適用に関する通則法2条本文)。もっとも、その法律の附則において施行日が定められたり、政令に施行日を定めることを委任したような場合には、その定められた日が施行日となります。
なお、地方公共団体の定める条例については、原則として、公布の日から起算して10日を経過した日から施行されることとなっており、例外として、条例に特別の定めがある場合には、それによるとされています(地方自治法16条3項)。条例に特別の定めがある場合というのは、その公布・施行される条例の附則において施行日が定められることだと解されています。
施行の方法としては、法令の内容を一般国民に広く知らせるべく、公布から施行までに一定の期間を置くことが望ましいといえますが、必ずしも一定期間が設けられるとは限らず、公布と同時に施行するとする、いわゆる即日施行とされる場合もあります。この即日施行によるとしたことで問題が生じてしまったのが、先に見た覚せい剤取締法違反の事件でした。
施行の方法にはバリエーションが存在しますので、いくつかご紹介したいと思います。
具体的な日付けをもって施行する場合
具体例 「この法律は、昭和二十四年一月一日から、これを施行する。」(刑事訴訟法 附則)
公布の日から施行する場合(いわゆる即日施行)
具体例 「この法律は、公布の日から、これを施行する。」(警察官職務執行法 附則)
公布後、一定期間を経過した日から施行する場合
具体例 「この憲法は、公布の日から起算して六箇月を経過した日から、これを施行する。」(憲法100条1項)
なお、ご存知のことと思いますが、日本国憲法は1946年11月3日に公布され、半年後の1947年5月3日に施行されました。憲法の施行を記念し、国の成長を期するとして定められたのが憲法記念日であり、憲法が平和と文化を貴重するものであることから、その公布日を、自由と平和を愛し、文化をすすめる文化の日と定め、国民の祝日としています(国民の祝日に関する法律2条)。
他の法令の施行日に施行する場合
具体例 「この法律は、会社法の施行の日から施行する。」(平成17年7月26日法律87号附則 民法の会社法の施行に伴う改正)
他の法令において施行日を規定する場合
具体例 「この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。」(平成16年12月1日法律147号附則 いわゆる民法の現代語化)
同じ法令内において条項別に異なる施行日を定める場合
具体例 「この法律は、平成十二年四月一日から施行する。ただし、第九百六十九条、第九百七十二条、第九百七十六条及び第九百七十九条の改正規定、第九百六十九条の次に一条を加える改正規定並びに次条の規定は、公布の日から起算して一月を経過した日から施行する。」(平成11年12月8日法律第149号附則 民法の成年後見制度の創設)
<参照条文>
憲法
第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使
の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。
第百条 この憲法は、公布の日から起算して六箇月を経過した日から、これを施行する。
A この憲法を施行するために必要な法律の制定、参議院議員の選挙及び国会召集の手続並びにこの憲法を施行するために必要な準備手続は、前項の期日よりも前に、これを行ふことができる。
公式例(昭和22年5月3日廃止)
第十二條 前数条ノ公文ヲ公布スルハ官報ヲ以テス
法の適用に関する通則法
(法律の施行期日)
第二条 法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。ただし、法律でこれと異なる施行期日を定めたときは、その定めによる。
覚せい剤取締法
第四十一条の二 覚せい剤を、みだりに、所持し、譲り渡し、又は譲り受けた者(第四十二条第五号に該当する者を除く。)は、十年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、一年以上の有期懲役に処し、又は情状により一年以上の有期懲役及び五百万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。
地方自治法
第十六条 普通地方公共団体の議会の議長は、条例の制定又は改廃の議決があつたときは、その日から三日以内にこれを当該普通地方公共団体の長に送付しなければならない。
A 普通地方公共団体の長は、前項の規定により条例の送付を受けた場合は、その日から二十日以内にこれを公布しなければならない。ただし、再議その他の措置を講じた場合は、この限りでない。
B 条例は、条例に特別の定があるものを除く外、公布の日から起算して十日を経過した日から、これを施行する。
C 当該普通地方公共団体の長の署名、施行期日の特例その他条例の公布に関し必要な事項は、条例でこれを定めなければならない。
D 前二項の規定は、普通地方公共団体の規則並びにその機関の定める規則及びその他の規程で公表を要するものにこれを準用する。但し、法令又は条例に特別の定があるときは、この限りでない。
国民の祝日に関する法律
第二条 「国民の祝日」を次のように定める。
元日 一月一日 年のはじめを祝う。
成人の日 一月の第二月曜日 おとなになつたことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます。
建国記念の日 政令で定める日 建国をしのび、国を愛する心を養う。
春分の日 春分日 自然をたたえ、生物をいつくしむ。
昭和の日 四月二十九日 激動の日々を経て、復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす。
憲法記念日 五月三日 日本国憲法の施行を記念し、国の成長を期する。
みどりの日 五月四日 自然に親しむとともにその恩恵に感謝し、豊かな心をはぐくむ。
こどもの日 五月五日 こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する。
海の日 七月の第三月曜日 海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う。
敬老の日 九月の第三月曜日 多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う。
秋分の日 秋分日 祖先をうやまい、なくなつた人々をしのぶ。
体育の日 十月の第二月曜日 スポーツにしたしみ、健康な心身をつちかう。
文化の日 十一月三日 自由と平和を愛し、文化をすすめる。
勤労感謝の日 十一月二十三日 勤労をたつとび、生産を祝い、国民たがいに感謝しあう。
天皇誕生日 十二月二十三日 天皇の誕生日を祝う。
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