特別代理人、利益相反行為 (最終改訂、平成27年1月30日)
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特別代理人とは、親権を行う父又は母とその親権に服する子供の利益が相反する場合や後見人と被後見人の利益が相反する場合(後見監督人がいる場合を除く)、あるいは、親権者一人に対してその親権に服する子供が数人いる場合で、その子供同士で利益が相反するときにその他の子供のために家庭裁判所への申立てにより選任される代理人です。
利益相反行為(民法826条)とは、自分と相手方が、契約当事者など、特定の法律行為の両方の当事者の関係に立つ場合を意味します。例えば、遺産分割協議であれば、自分の相続分が増えれば相手の相続分が減るのであり、自分の相続分が減れば相手の相続分が増える関係です。また、例えば不動産の売買契約であれば、自分が相手方に不動産を売る場合、売買代金が高ければ自分が得する可能性が高くなり、売買代金が低ければ相手が得する可能性が高くなります。契約行為などの他、相続放棄など、単独行為であっても、親権者が相続放棄しない場合など、事実上当人の利益が親権者の利益と抵触するような場合は、利益相反行為であるとされています(最高裁判所昭和53年2月24日判決など)。
民法第826条(利益相反行為)
第1項 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
第2項 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
未成年者には単独で適正に法律行為を行う能力がありませんので、未成年者を保護するために、未成年者に代わって親権者が後見的に未成年者の権利を代理行使することとされていますが(民法824条)、この親権者と未成年者当人との関係が利益相反の関係にある場合は、原則どおり親権者に代理権を行使させることが不適当であるため、特別代理人の制度が制定されています。
この特別代理人は、家庭裁判所に申立てると家庭裁判所が選任するのですが、裁判所が名簿等に沿って指定するのではなく、選任申立ての際に申立人から特別代理人候補者を適格である理由とともに裁判所に申し伝えますので、特別代理人には、弁護士、司法書士等の専門職のほか、子供の祖父母や叔父、伯母等もなることができます。特に問題が無ければ、申立人が指定した特別代理人候補者が選任されることになります。特別代理人は、委任契約における受任者と同様に「善良なる管理者の注意(民法644条)」をもって、代理行為を行います。つまり、本人の立場に立って、妥当な法律行為を行うことになります。
母親と子供が相続人となる場合において、当該相続に関する遺産分割協議について母親が子供の親権者として協議を成立させることが「利益相反」にあたるか否かについて判例は、「民法八二六条二項所定の利益相反行為とは、行為の客観的性質上数人の子ら相互間に利害の対立を生ずるおそれのあるものを指称するのであつて、その行為の結果現実にその子らの間に利害の対立を生ずるか否かは問わないものと解すべきであるところ、遺産分割の協議は、その行為の客観的性質上相続人相互間に利害の対立を生ずるおそれのある行為と認められるから、前記条項の適用上は、利益相反行為に該当するものといわなければならない(最判昭和49.7.22)」として、仮に母親が一切の財産を相続せず、子供達が財産を取得するとする遺産分割協議が成立した場合であっても、被代理人全員からの有効な追認がない限り、当該協議は無効であるとされています。
なお、利益相反行為であって特別代理人が必要であるのに、これを選任しないで親権者が未成年者を代理して法律行為を行った場合は、無権代理(民法113条)として、本人に効果帰属しないと解釈されています。ただし、不動産の相続登記手続きにおいては、法務局が登記申請を審査するときに、特別代理人が必要であるのに選任されていない場合は申請を却下しますので、このような無権代理の状態で相続登記されることはありません。
民法の定める特別代理人が選任されるケースとしては、上述の親権者(後見人)との利益相反、又は子供同士での利益相反の際に選任されるもののほか、嫡出否認の訴え(第775条)の際に選任されることがあります。
※具体的な利益相反の事例
親子間の具体的な利益相反の事例として親子で共同相続する場合の他、以下のような場合があります。
(ケース1)
親権者と未成年の子供が共有する土地に、親権者が債務者となって、あるいは、物上保証人として抵当権を設定する場合
親権者の債務を未成年の子供の財産で担保させようとする行為ですので、子供と親権者との間で利益相反が生じます。よって特別代理人の選任が必要となります。
但し、当該借り入れの行為が利益相反か否かはその行為の外観で判断しますので、債務者が未成年の子供で、設定者も未成年の子供である場合には、仮にその借り入れが親権者の利益を図るためのものであったとしても、未成年者の債務をその子自身の財産をもって担保するにすぎませんので、当該行為は利益相反に当たらない(最判平4.12.10/親権者が子を代理してする法律行為は、親権者と子との利益相反行為に当たらない限り、それをするか否かは子のために親権を行使する親権者が子をめぐる諸般の事情を考慮してする広範な裁量にゆだねられているものとみるべきである。そして、親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、利益相反行為に当たらない)とされています(この場合は、親権者の代理権の濫用の問題となります。)。なお、この判例のように利益相反行為にあたらない場合でも、未成年者本人の財産を故意過失により不当に減少させてしまった場合は、後日、未成年者が成人した後などに、損害賠償請求をする可能性がありますので、ご注意下さい。利益相反かどうかという問題と、法的責任を負うかどうかという問題は、別だということです。
(ケース2)
配偶者の親が亡くなって相続が発生し、亡夫との間の未成年の子が複数いる場合に、当該相続について代襲相続人として遺産分割協議に参加する場合
その親権に服する未成年の子が一人の場合には、残された配偶者がその子の親権者として他の相続人と遺産分割協議ができますが、未成年の子供が複数いる場合には、一人の子には親権が行使できますが、その他の未成年の子供については特別代理人の選任が必要となります。これは、一部の子供については相続放棄、残りの子供については相続する場合にも同様です。
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