過失運転致死傷罪(最終更新平成28年6月30日)

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不注意から交通事故を起こしてしまい、相手が亡くなってしまったり、入院する大怪我となってしまった場合、どのような刑事処分となるでしょうか。


1、過失運転致死傷罪の構成要件と量刑判断の考慮要素

 過失運転致死傷罪とは、自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を致死又は傷害した場合に成立する犯罪であり、従来刑法で、「業務上過失致死・傷害」、「自動車運転過失致死・傷害」として処分されていたものが、平成25年の刑法改正により、特別法として、自動車運転死傷行為処罰法により処分されることとなった犯罪類型です。具体的な罰条を引用します。

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
第5条(過失運転致死傷) 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

 歩行者や自転車やバイクや対向車などの有無及びその安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務を怠り、安全確認をしないまま発進、進行した点に過失が認められる場合は、過失運転致死傷罪で起訴される可能性があります。過失犯ですので、致死事案でも公判請求されるのは半数未満であり、致傷事案では、おおむね、略式罰金命令が1割未満、公判請求事案が数パーセント未満とされています。

 過失運転致死傷罪の法定刑は7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金とされており、かなり幅がありますが、同罪の事案における刑事処分決定の際の考慮要素としては、

@被害者の傷害の程度
A被害弁償の有無
B被害者の処罰感情

が極めて重要となってきます(従って、示談は不可欠です。)。@被害者の傷害の程度が軽微であったり、傷害結果が軽微とはいえなくてもA被害弁償が十分に行われており、B被害者が加害者の刑事処罰を求めていないような場合、検察官の起訴裁量により不起訴処分となり、刑事処罰がなされずに済むことがありますが(刑事訴訟法248条)、@被害者の傷害結果が重い場合、例えば、入院期間が3か月を超えるような場合、起訴回避は厳しくなってくるようです。

参考書類
法務省のQ&A
量刑が重くなる場合(法務省資料)
量刑相場など(法務省資料)


2、弁護活動の方針

 被害者の怪我の程度が入院を伴い全治1ヶ月を超えるような重傷の場合には、この点が起訴、不起訴の決定にあたって不利に考慮され、公判請求され、罰金に留まらない執行猶予付きの禁錮刑に処断されてしまう可能性もあります。

 弁護人としては、まず最初に、検察官と交渉し、過失事案であるから被害弁償による示談成立が最も大事であり、示談交渉の成否の趨勢を見てから起訴すべきかどうか判断すべきと主張する必要があります。起訴便宜主義(刑訴法248条)を採用する我が国の刑事訴訟法では、被害者との示談の成否(刑訴法248条の「犯罪後の情況」)が起訴判断の重要な要素を占めているのです。

刑訴法第248条  犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

 このように刑事手続において重要な要素となる被害者との示談を、保険会社に任せきりにすることは得策ではありません。保険会社には事案に即してなるべく低い金額で示談成立させようとする性質があります。保険会社も事業として行っている以上これは避けられません。

 この場合の方法対策ですが、複数のやり方があります。@保険会社の出し渋っている差額を思い切ってあなたが補充する方法。しかし、賠償額無制限の保険であるのになぜあなたが負担しなければならないのか納得がいかないかも知れません。しかしこの方法は、刑事事件を有利にするために実務上よく使われる手法であることは事実です。安易に補充を提案すると保険会社はなお出し渋りますので、油断できません。安全確実にするには交渉のため代理人が必要となるでしょう。A次の方法は、保険会社の方とは別に、被害者と一定額で示談して示談を刑事事件的には終了してしまうことです。保険会社がぐずぐずしている間に、起訴される危険性がある場合に行います。しかし、その額をどれほどにするかは前述の追加補充金との関係から決めますし、保険会社の支払と自らの示談をどのような関係にするか、保険会社との関係、被害者への説明、検察官への説明等高度な利益考量が求められますので専門家との慎重な協議対策が必要です。結果論からいうと、検察官にこのような示談で、不起訴や略式罰金手続の選択を納得させることができるかということになります。検察官との綿密な事前交渉も不可欠でしょう。事案によりますが、致死事案でも不起訴事案や略式罰金事案は有りますので諦めずに、被害者対応と検察対応を為すべきでしょう。


<参照条文>

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(平成25年11月27日法律第86号)

第一条(定義)
第1項 この法律において「自動車」とは、道路交通法 (昭和三十五年法律第百五号)第二条第一項第九号 に規定する自動車及び同項第十号 に規定する原動機付自転車をいう。
第2項 この法律において「無免許運転」とは、法令の規定による運転の免許を受けている者又は道路交通法第百七条の二 の規定により国際運転免許証若しくは外国運転免許証で運転することができるとされている者でなければ運転することができないこととされている自動車を当該免許を受けないで(法令の規定により当該免許の効力が停止されている場合を含む。)又は当該国際運転免許証若しくは外国運転免許証を所持しないで(同法第八十八条第一項第二号 から第四号 までのいずれかに該当する場合又は本邦に上陸(住民基本台帳法 (昭和四十二年法律第八十一号)に基づき住民基本台帳に記録されている者が出入国管理及び難民認定法 (昭和二十六年政令第三百十九号)第六十条第一項 の規定による出国の確認、同法第二十六条第一項 の規定による再入国の許可(同法第二十六条の二第一項 (日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法 (平成三年法律第七十一号)第二十三条第二項 において準用する場合を含む。)の規定により出入国管理及び難民認定法第二十六条第一項 の規定による再入国の許可を受けたものとみなされる場合を含む。)又は出入国管理及び難民認定法第六十一条の二の十二第一項 の規定による難民旅行証明書の交付を受けて出国し、当該出国の日から三月に満たない期間内に再び本邦に上陸した場合における当該上陸を除く。)をした日から起算して滞在期間が一年を超えている場合を含む。)、道路(道路交通法第二条第一項第一号 に規定する道路をいう。)において、運転することをいう。

第二条(危険運転致死傷)
第1項 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
一号 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
二号 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
三号 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
四号 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
五号 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
六号 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

第三条
第1項 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。
第2項 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。


第四条(過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱) アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、十二年以下の懲役に処する。

第五条(過失運転致死傷) 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

第六条(無免許運転による加重)
第1項 第二条(第三号を除く。)の罪を犯した者(人を負傷させた者に限る。)が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、六月以上の有期懲役に処する。
第2項 第三条の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は六月以上の有期懲役に処する。
第3項 第四条の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、十五年以下の懲役に処する。
第4項 前条の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、十年以下の懲役に処する。


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