公務執行妨害罪で検挙された場合(平成20年7月15日最終改訂)

トップページ > 暮らしの法律知識 > 犯罪被害を受けたとき、犯罪を犯した時 > 公務執行妨害罪 (サイトマップ

質問:酒に酔って通行人と殴り合いになり、止めに入った警察官に暴行し、怪我をさせ、警察官が乗ってきたパトカーを蹴って損壊してしまいました。どうしたら良いでしょうか。


回答、解説:

1、公務執行妨害罪(刑法95条1項)に該当し、当該警察官に対しては傷害罪(同204条)、警察署(地方公共団体機関)に対しては、器物損壊罪(同261条)が成立します。

2、刑法によって守るべき利益を法益といいますが、法益は、公的法益と私的法益(例えば殺人罪)に分かれて、公的法益は、更に、国家的法益と社会的法益(例えば放火罪)に分類されます。傷害罪、器物損壊罪は私的、個人的法益であり、公務執行妨害罪は、国家権力の一作用である公務員による公務の円滑な執行を保護するもので国家的法益に関する罪です。警察官は、地方公務員ですが、国家権力は地方公共団体に分権されますから(憲法92条以下、地方分権主義)地方公務員である警察官の公務も保護されることになります。その制度趣旨は、適正な公務執行に関する妨害行為を処罰し公務の適正な作用を保護する点にありますから公務員自身が保護の対象ではありません(犯罪行為が行われる対象客体に過ぎません)。国民が自ら建設した国家の基本は、三つの権力(司法、立法、行政)により成り立ち社会秩序が維持形成されている以上、行政権力の具現化である警察官の業務も公務として刑法により刑罰という強制力を以って保護されることになります。

3、警察官が、私人間の喧嘩を防止する事は適正な職務執行ですから、警察官に対する、暴行・傷害、パトカーの損壊は、公務執行妨害罪の「暴行」に該当します。パトカーの損壊が、本罪の暴行に該当するか問題ですが、本罪の保護法益は公務の適正な作用ですから、直接警察官に対する暴行だけでなく、警察官が乗ってきた車自体への損壊行為も公務の執行を間接的に妨害するものとして暴行行為と評価されます。この様に、公務執行妨害罪の「暴行」は、暴行罪(刑法208条)の「暴行」よりも広い概念であると解釈されています。

4、本罪の刑罰について、従来は「3年以下の懲役又は禁錮に処する」と規定されていましたが、平成18年の刑法一部改正により、新たに「50万円以下の罰金」という規定が設けられました。

5、この改正の理由としては、「公務執行妨害、窃盗等の犯罪に関する最近の情勢等に鑑み、これらの犯罪に適正に対処するため、罰金刑を新設するなどその法定刑を改めるとともに、略式命令の限度額の引き上げ及び財産刑の執行に関する手続の整備をする必要がある」からだとされています(法務省の資料より)。要するに、上記改正の趣旨は、公務執行妨害罪について、近年、本件のように検挙件数の増加が顕著なことから、それほど重要とは見られない公務執行妨害行為に対して罰金刑を導入することによって、本罪の弾力的運用を可能にし、起訴便宜主義(刑訴248条)の趣旨を生かし適正、公平な刑罰の適用を実現することにあります。例えば、従来懲役刑しかありませんでしたから軽微な妨害行為で起訴猶予処分になっていたものが罰金刑として処分が出来ますし、公判請求(正式刑事裁判)をしていた事件でも非公開の略式手続(刑事訴訟法461条、100万円以下の罰金として刑事処分を行う)により迅速な刑事処分が可能となりました。手続面においても、身体拘束されている場合には、略式命令の請求と同時に検察官は釈放の手続をとることとなっています。無論この略式命令の請求については、無罪の主張や、罰金額に不服がある場合、正式裁判で争うこととなりますし、略式命令と言っても有罪には変わり無く、前科も付くこととなってしまいます。本罪のような被害者のない犯罪については、和解等の手段が考えられないため、従来のように不起訴処分とされるケースは減少するものと予想されています。

6、警察官に対する暴行は、既に公務執行妨害罪で評価されていますから別個に暴行罪は成立しません。しかし、警察官に対する傷害は、警察官個人に対するものとして傷害罪が成立します。更に、パトカーは、警察署(地方公共団体機関)の所有物として器物損壊罪が成立します。

7、本件のような被疑者段階における弁護活動ですが、
@ 逮捕された被疑者の不安と動揺の軽減を図るための接見。
A 家族等の身元引き受け書提出、贖罪寄付、和解による被害弁償による逮捕された被疑者の身体拘束解放のための検察官あるいは裁判官との面接交渉。
B 傷害罪、パトカーの損壊罪については、謝罪、被害回復、治療費の支払いを行います。パトカーの損壊についての示談行為は、警察署長とすることになるでしょう。
C 以上を前提に検察官との折衝による不起訴処分の要請を行います。できる限り早期に弁護人の活動を開始することが必要でしょう。

≪条文参照≫
憲法 第92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
刑法 第95条(公務執行妨害及び職務強要)公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2項 公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。
第204条(傷害)人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第261条(器物損壊等)前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

8、データベース事例集検索

  当事務所の相談データベース事例集を検索できます。検索ボタンを押してください。  


9、電子メール法律相談:以下のフォームに書込後、送信ボタンを押して下さい。担当弁護士から一般的なご回答をご連絡いたします。(電話番号を記載されなかったときはメールにてご返信致します。)

お名前(必須)
メールアドレス(必須)
電話番号、住所(任意)
相談内容(事件の概要を簡潔にお知らせ下さい。) 
 

10、電話法律相談:03−3248−5791までご相談内容をご連絡頂ければ、担当弁護士から簡単なご回答を差し上げておりますので、ご参考になさって下さい。

トップページに戻る