インターネット記事の削除依頼について (最終更新日平成30年8月14日)
インターネットの掲示板に氏名と前科が記載されてしまった場合に、削除してもらうにはどうしたら良いでしょうか。(加害者からの削除請求についてはこちらを参照下さい。)
1. インターネットの掲示板に記載する行為も,一般社会での「言いふらし行為」「掲示行為」も,媒体が異なるだけで,人の名誉を侵害する行為は,同様に法的に評価されます。民事上は,不法行為に基づく損害賠償請求や差止請求の対象となりますし,刑事上は,名誉毀損罪での刑事処分の可能性があります。
インターネットの掲示板に氏名や前科の事実が記載されていた場合は,第一に掲示板の管理者に対して,理由を説明して,削除してもらうように交渉することが原則です。
管理者の連絡先が不明な場合や,管理者が削除に応じない場合は,第二としてウェブサーバーを提供しているインターネットプロバイダー業者に対して,名誉毀損やプライバシー侵害などを理由として,「送信防止措置請求」や「発信者情報開示請求」をすることもできます(プロバイダ責任法3条2項、4条1項)。最高裁判所の判例によると、WEBサーバーを提供せず、インターネット接続サービスのみ提供している、いわゆる経由プロバイダも、WEBサーバーを提供するコンテンツプロバイダ業者と同様に、プロバイダ責任法の「特定電気通信役務提供者」に該当し、発信者情報開示請求に応じる義務が有り得ることになります。
これらの交渉が、本人ではうまく行かない場合は,各法務局の人権擁護課長に対して被害申告を行い,削除依頼の救済手続をしてもらうことが考えられます。勿論,法律事務所に相談し,弁護士を代理人に依頼してこれらの交渉や手続を行う事もできます。裁判所に訴えて,記事の削除と損害賠償請求を求める方法もあります。名誉毀損罪での刑事告訴をすることが必要な場合もあります。
2. サイトの削除がどうしてもできない場合は,検索サイトの運営会社に対して,検索結果削除請求を行う手段も考えられます。
解説:
1,(名誉毀損)
名誉とは,人の社会上の地位又は価値を言い(大審院大正5年5月25日判決),名誉毀損行為は,社会的評価を低下させるような事実を,不特定多数の人の視聴に達することの可能な状況(大審院大正12年6月4日判決)に置く事を意味します。
刑法230条(名誉毀損)公然と事実を摘示し,人の名誉を毀損した者は,その事実の有無にかかわらず,三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2項 死者の名誉を毀損した者は,虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ,罰しない。
当然,不特定多数人に対して口頭で告知(言いふらし)する行為であっても,不特定多数人の目に触れる場所にポスターや落書きなどで掲出する行為であっても,名誉毀損罪は成立しうるものですが,インターネットが普及した今日では,インターネット掲示板に他人の社会的評価を低下させるような事実を記載した記事を書き込みし,不特定多数の視聴に供する行為を行った場合でも,名誉毀損罪は成立しうることになります。判例も,インターネット上の名誉毀損事案について,他の事例と基本的に同様の基準で犯罪の成否を検討すべきであると判示しています。最高裁判所平成22年3月15日判決は,「インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない」としています。
名誉毀損行為は,民事上も違法な行為となりますので,民法709条の不法行為として,損害賠償請求や差止請求の対象となります。
但し,他人の社会的評価を低下させるような事実を公表したとしても,マスコミの他,一般私人であっても,専ら公益を図る目的で行われた行為であれば,正当行為として違法性が阻却され,刑事処分の対象とはなりません(刑法230条の2第1項)。
刑法230条の2(公共の利害に関する場合の特例)
前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。
2項 前項の規定の適用については,公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は,公共の利害に関する事実とみなす。
3項 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。
過去の刑事事件については,最高裁昭和56年4月14日判決で「前科及び犯罪経歴は,人の名誉,信用に直接かかわる事項であり,前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」と判示されておりますとおり,合理的な必要性もないのに不特定多数に情報を流布することは,違法性を阻却せず,刑事上も民事上も違法性を帯びる行為と解釈されています。また、最高裁平成6年2月8日判決(ノンフィクション「逆転」訴訟最高裁判決)では、「ある者が刑事事件につき被疑者とされ、さらには被告人として公訴を提起されて判決を受け、とりわけ有罪判決を受け、服役したという事実は、その者の名誉あるいは信用に直接関わる事項であるから、その者は、みだりに右の前科等にかかわる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有するものというべきである。(中略)そして、その者が有罪判決を受けた後あるいは服役を終えた後においては、一市民として社会に復帰することが期待されるのであるから、その者は、前科等にかかわる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有するというべきである。」と判断しています。従って,事件直後に新聞報道等には一定の合理性があるとしても,事件から何年も経過した場合には,この情報を流布することは法律上認められる行為ではありません。
また,刑事事件終了から一定期間が経過した場合は,法的に「刑の消滅」又は「刑の言渡しが効力を失った」状態に至っていることになります。この場合は,法的に,刑事処分の効力が消滅しているため,掲出行為の正当性を法的に基礎付けることが極めて困難と言えます。罰金刑の場合は,納付から5年,懲役刑の場合は執行を終えて10年,執行猶予の場合は猶予期間経過により,刑事処分の効力が消滅することになります。
刑法27条(猶予期間経過の効果) 刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは,刑の言渡しは,効力を失う。
刑法第34条の2(刑の消滅) 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは,刑の言渡しは,効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも,同様とする。
刑事訴訟終了後の刑事記録の取扱いについて定めた「刑事確定訴訟記録法」では,4条と6条で,刑事事件終結後3年を経過した場合は原則として閲覧させないこと,閲覧した者は「犯人の改善及び更生を妨げ,又は関係人の名誉若しくは生活の平穏を害する行為をしてはならない」ことが規定されています。刑事記録ではなくても,人の過去の刑事事件に関する事実を知った者には,被告人の権利を保護するために,同様の注意義務が求められていると言えるでしょう。
条文を参照します。
刑事確定訴訟記録法4条(保管記録の閲覧) 保管検察官は,請求があつたときは,保管記録(刑事訴訟法第五十三条第一項
の訴訟記録に限る。次項において同じ。)を閲覧させなければならない。ただし,同条第一項
ただし書に規定する事由がある場合は,この限りでない。
2 保管検察官は,保管記録が刑事訴訟法第五十三条第三項
に規定する事件のものである場合を除き,次に掲げる場合には,保管記録(第二号の場合にあつては,終局裁判の裁判書を除く。)を閲覧させないものとする。ただし,訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があつた場合については,この限りでない。
一 保管記録が弁論の公開を禁止した事件のものであるとき。
二 保管記録に係る被告事件が終結した後三年を経過したとき。
三 保管記録を閲覧させることが公の秩序又は善良の風俗を害することとなるおそれがあると認められるとき。
四 保管記録を閲覧させることが犯人の改善及び更生を著しく妨げることとなるおそれがあると認められるとき。
五 保管記録を閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することとなるおそれがあると認められるとき。
六 保管記録を閲覧させることが裁判員,補充裁判員,選任予定裁判員又は裁判員候補者の個人を特定させることとなるおそれがあると認められるとき。
3 第一項の規定は,刑事訴訟法第五十三条第一項
の訴訟記録以外の保管記録について,訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があつた場合に準用する。
4 保管検察官は,保管記録を閲覧させる場合において,その保存のため適当と認めるときは,原本の閲覧が必要である場合を除き,その謄本を閲覧させることができる。
第6条(閲覧者の義務) 保管記録又は再審保存記録を閲覧した者は,閲覧により知り得た事項をみだりに用いて,公の秩序若しくは善良の風俗を害し,犯人の改善及び更生を妨げ,又は関係人の名誉若しくは生活の平穏を害する行為をしてはならない。
なお、前記ノンフィクション「逆転」訴訟最高裁判決では、「もっとも、ある者の前科等に関わる事実は、他面、それが刑事事件ないし刑事裁判という社会一般の関心あるいは批判の対象となるべき事項にかかわるものであるから、事件それ自体を公表することに歴史的又は社会的な意義が認められるような場合には、事件の当事者についても、その実名を明らかにすることが許されないとは言えない。また、その者の社会的活動の性質あるいはこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによっては、その社会的活動に対する批判あるいは評価の一資料として、右の前科等にかかわる事実が公表されることを受忍しなければならない場合もあると言わなければならない(最高裁判所昭和56年4月16日判決)。さらにまた、その者が選挙によって選出される公職にある者あるいはその候補者など、社会一般の正当な関心の対象となる公的立場にある人物である場合には、その者が公職にあることの適否などの判断の一資料として右の前科等にかかわる事実が公表されたときは、これを違法というべきものではない(最高裁昭和41年6月23日判決)。」と判示しており、前科の公表があった場合でも、一定の場合には不法行為を構成しない場合がありうる事を示しています。従って、具体的な事例ごとに、その記述内容が適切かどうか検討していく必要がありますが、例えば、単に過去の新聞記事をコピーアンドペーストして公表するだけの記事の場合には、この要件を満たさない可能性が高いといえます。
2,(プライバシー侵害)
プライバシー権とは,個人の人権尊重と幸福追求権を定めた憲法13条から派生し,判例上,解釈上認められた権利で,「私生活をみだりに公開されない権利」とされています(東京地裁昭和39年9月28日判決)。この判例では,プライバシー侵害が不法行為を構成するための条件として,3条件が示されています。@私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある情報であること,A一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合に,他者に開示されることを欲しないであろうと認められる情報であること,B一般の人に未だ知られていない情報であることが必要である,とされています。一般に,個人の前科に関する情報は,プライバシー権の保護の対象となると解釈することができます。プライバシー侵害が不法行為となる場合は,損害賠償請求や差止請求をすることができる事になります。
国民の権利意識の高まりを受けて,平成15年5月に「個人情報の保護に関する法律」が制定されました。第1条の目的規定と3条の基本理念を引用します。
第1条(目的)この法律は、高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み、個人情報の適正な取扱いに関し、基本理念及び政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより、個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。
第3条(基本理念)個人情報は、個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきものであることにかんがみ、その適正な取扱いが図られなければならない。
この法律で個人情報は,特定個人を識別することができる情報を指しますが,裁判所は個人情報もプライバシー権の一部として保護されうると判断しています(最高裁平成15年9月12日判決)。
第2条(定義)
第1項 この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一号 当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等(文書、図画若しくは電磁的記録(電磁的方式(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式をいう。次項第二号において同じ。)で作られる記録をいう。第十八条第二項において同じ。)に記載され、若しくは記録され、又は音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項(個人識別符号を除く。)をいう。以下同じ。)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)
二号 個人識別符号が含まれるもの
第2項 この法律において「個人識別符号」とは、次の各号のいずれかに該当する文字、番号、記号その他の符号のうち、政令で定めるものをいう。
一号 特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号であって、当該特定の個人を識別することができるもの
二号 個人に提供される役務の利用若しくは個人に販売される商品の購入に関し割り当てられ、又は個人に発行されるカードその他の書類に記載され、若しくは電磁的方式により記録された文字、番号、記号その他の符号であって、その利用者若しくは購入者又は発行を受ける者ごとに異なるものとなるように割り当てられ、又は記載され、若しくは記録されることにより、特定の利用者若しくは購入者又は発行を受ける者を識別することができるもの
第3項 この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。
第4項 この法律において「個人情報データベース等」とは、個人情報を含む情報の集合物であって、次に掲げるもの(利用方法からみて個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして政令で定めるものを除く。)をいう。
一号 特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの
二号 前号に掲げるもののほか、特定の個人情報を容易に検索することができるように体系的に構成したものとして政令で定めるもの
第5項 この法律において「個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者をいう。ただし、次に掲げる者を除く。
一号 国の機関
二号 地方公共団体
三号 独立行政法人等(独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十九号)第二条第一項に規定する独立行政法人等をいう。以下同じ。)
四号 地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)
第6項 この法律において「個人データ」とは、個人情報データベース等を構成する個人情報をいう。
第7項 この法律において「保有個人データ」とは、個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加又は削除、利用の停止、消去及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データであって、その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるもの又は一年以内の政令で定める期間以内に消去することとなるもの以外のものをいう。
第8項 この法律において個人情報について「本人」とは、個人情報によって識別される特定の個人をいう。
第9項 この法律において「匿名加工情報」とは、次の各号に掲げる個人情報の区分に応じて当該各号に定める措置を講じて特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元することができないようにしたものをいう。
一号 第一項第一号に該当する個人情報 当該個人情報に含まれる記述等の一部を削除すること(当該一部の記述等を復元することのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えることを含む。)。
二号 第一項第二号に該当する個人情報 当該個人情報に含まれる個人識別符号の全部を削除すること(当該個人識別符号を復元することのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えることを含む。)。
第10項 この法律において「匿名加工情報取扱事業者」とは、匿名加工情報を含む情報の集合物であって、特定の匿名加工情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものその他特定の匿名加工情報を容易に検索することができるように体系的に構成したものとして政令で定めるもの(第三十六条第一項において「匿名加工情報データベース等」という。)を事業の用に供している者をいう。ただし、第五項各号に掲げる者を除く。
個人情報保護法では,個人情報が事実に反する場合や,本人の同意を得ない個人情報の取扱いがある場合には,個人情報の訂正(29条)や,利用停止(30条)を求めることが出来る旨規定されています。
第29条(訂正等)
第1項 本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの内容が事実でないときは、当該保有個人データの内容の訂正、追加又は削除(以下この条において「訂正等」という。)を請求することができる。
第2項 個人情報取扱事業者は、前項の規定による請求を受けた場合には、その内容の訂正等に関して他の法令の規定により特別の手続が定められている場合を除き、利用目的の達成に必要な範囲内において、遅滞なく必要な調査を行い、その結果に基づき、当該保有個人データの内容の訂正等を行わなければならない。
第3項 個人情報取扱事業者は、第一項の規定による請求に係る保有個人データの内容の全部若しくは一部について訂正等を行ったとき、又は訂正等を行わない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なく、その旨(訂正等を行ったときは、その内容を含む。)を通知しなければならない。
第30条(利用停止等)
第1項 本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データが第十六条の規定に違反して取り扱われているとき又は第十七条の規定に違反して取得されたものであるときは、当該保有個人データの利用の停止又は消去(以下この条において「利用停止等」という。)を請求することができる。
第2項 個人情報取扱事業者は、前項の規定による請求を受けた場合であって、その請求に理由があることが判明したときは、違反を是正するために必要な限度で、遅滞なく、当該保有個人データの利用停止等を行わなければならない。ただし、当該保有個人データの利用停止等に多額の費用を要する場合その他の利用停止等を行うことが困難な場合であって、本人の権利利益を保護するため必要なこれに代わるべき措置をとるときは、この限りでない。
第3項 本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データが第二十三条第一項又は第二十四条の規定に違反して第三者に提供されているときは、当該保有個人データの第三者への提供の停止を請求することができる。
第4項 個人情報取扱事業者は、前項の規定による請求を受けた場合であって、その請求に理由があることが判明したときは、遅滞なく、当該保有個人データの第三者への提供を停止しなければならない。ただし、当該保有個人データの第三者への提供の停止に多額の費用を要する場合その他の第三者への提供を停止することが困難な場合であって、本人の権利利益を保護するため必要なこれに代わるべき措置をとるときは、この限りでない。
第5項 個人情報取扱事業者は、第一項の規定による請求に係る保有個人データの全部若しくは一部について利用停止等を行ったとき若しくは利用停止等を行わない旨の決定をしたとき、又は第三項の規定による請求に係る保有個人データの全部若しくは一部について第三者への提供を停止したとき若しくは第三者への提供を停止しない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。
3−1,(掲示板等の管理者に対する削除請求、相手方が国内の場合)
インターネットの掲示板やブログ記事などで,名誉毀損やプライバシー侵害の記事が掲出された場合,その,WEBページの管理者に対して,記事の削除請求をすることが原則となります。掲示板の場合は,WEBページを訪問した第三者が自由に記事を書き込みできるようになっている場合もあり,削除請求の連絡をするまで,管理者は人権侵害にあたる書き込みがあったことすら知らない場合もあります。ですから,最初に連絡する場合は,礼儀を保った態度で通知を行う必要があります。連絡する前に、事前に証拠の保存をする事を検討して下さい。インターネット閲覧証明書についてはこちらを参照下さい。
連絡の相手方を調べるには,ホームページのトップページに記載された連絡先を参照することも必要ですが,ドメインの登録者を確認することも必要です。ドメイン管理団体であるNIC(ネットワークインフォメーションセンター)のwhoisサーバーを利用すると良いでしょう。Whoisサーバーはドメインの登録者や管理者の照会に対してドットコムやドットネットなど,トップレベルドメインを管理するインターニックや,日本のjpドメインを管理するJPNICなどがあります。日本ではJPNICから委託を受けたJPRSがwhoisサーバーを提供しています。各URLは次の通りです。
https://www.internic.net/whois.html ←インターニックのwhoisサービス
http://whois.jprs.jp/ ←JPRSのwhoisサービス
https://www.telesa.or.jp/wp-content/uploads/consortium/provider/pdf/Whois.pdf ←社団法人テレコムサービス協会による解説ページ
掲示板等の管理者の住所氏名,電話番号,電子メールなどが判明した場合は,本人又は代理人弁護士から,記事の削除要請の連絡をする事になります。弁護士が行う場合は,原則として,内容証明郵便による通知書を用いて連絡する事になります。
連絡内容は,次の通りです。
@通知人の氏名連絡先(代理人の表示)
A問題となっているページのURL(インターネットアドレス)
B問題となっているページ内の,問題となっている部分の特定
C問題となっている部分が,削除されるべき法的な理由(法令や判例の引用説明)
D問題となっている部分を削除請求する旨
掲示板の管理者によっては,削除依頼についても,公開の掲示板への書き込みを要求している場合もありますが,次の理由で,公開掲示板での削除依頼をすることはあまりお勧めできません。
理由@,名誉毀損にしてもプライバシー侵害にしても,公開掲示板に削除依頼の書き込みをすること自体が,人権侵害に関する記事(いわゆるコピペ転載記事)を増大させ,あらたな権利侵害を誘発する恐れがあること。
理由A,公開掲示板に削除依頼を書き込みすることにより,削除依頼対象記事が真実であったという印象を掲示板参加者にもたらし,あらたな人権侵害を誘発する恐れがあること。
3−2,(掲示板等の管理者に対する削除請求、相手方が外国所在の場合)
なお,権利侵害の記事を掲載しているドメインのトップページ等に一切連絡先が表示されておらず,whois検索によって,登録者や管理者が外国に所在する法人や個人であった場合や,WEBサーバーの所在地が外国になっている場合があります。
このような場合は,管理者やWEBサーバーが所在する国において,その国の弁護士に依頼して,その国の裁判所に申立を行い,削除請求の手続を行うことが原則となります。インターネット上の登録者や管理者以外に,日本国内に管理者が存在することを立証することができれば,日本国内でも手続をすることができますが,一般的には困難なことであると言わざるを得ません。
そこで、東京地方裁判所民事9部(保全部)では、外国所在サーバーの管理者である外国法人の代表者に対して、権利侵害状況を確認した上で、仮処分命令として、記事の削除と、発信者情報(IPアドレス及び記事投稿日時)の開示を命ずる運用が試みられています。仮処分の保証金は30〜60万円前後となっているようです。
仮処分の主文は次のような形式になっています。
>債務者は,債権者に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を仮に開示せよ。
>債務者は,別紙投稿記事目録記載の各投稿記事を仮に削除せよ。
現在のところ、外国サーバーの掲示板の管理者も、この裁判所の仮処分命令には従っているようです。仮処分の申し立ては、民事保全法に基づき、非保全権利の存在と、保全の必要性についての疎明(民事訴訟法上の証明までは要求されないが裁判所が一応理解できる程度の法的な説明)が必要ですので経験のある法律事務所にご相談なさると良いでしょう。
3−3,(記事削除後の検索エンジンのキャッシュ更新手続)
掲示板の管理者が名誉毀損記事の削除に応じたとしても、検索エンジンの検索結果(キャッシュ表示)には、最長で2〜3ヶ月程度、名誉毀損記事の抜粋テキストが表示され続けてしまいます。検索エンジンのクロウラー(インターネット記事のデータベースの情報を更新するために情報を収集するプログラム)がインターネットの記事を巡回して閲覧(情報取得)するのに、時間が掛かるためです。このような場合に、検索エンジン運営会社に対して、キャッシュの更新を求める手続きを取る必要があります。
主な検索エンジンのキャッシュ更新手続きの窓口をご紹介します。
https://www.google.com/webmasters/tools/removals (検索エンジン、グーグルの場合)
https://www.yahoo-help.jp/app/ask/p/2508/form/searchfdbk-info (検索エンジン、ヤフーの場合)
4,(プロバイダ業者に対する送信防止措置請求など )
(1) 掲示板等の管理者の所在が不明な場合や,掲示板の管理者が削除要請に応じない場合は,WEBサーバーの情報通信機器(コンピューター)を実際に運用している,インターネットサービスプロバイダ(ISP)業者に対して,送信防止措置請求を行うことや、発信者情報開示請求を行うこと(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律[以下「プロバイダ責任法」といいます。]3条2項、同法4条1項)が考えられます。
概念図を示します。
掲示板の管理者の管理操作
↓
WEBサーバー(コンピューター) ← IIS(Microsoft社のWebサーバソフト)やApache(人気のあるWebサーバソフトウェアの一つ)などのWEBサーバープログラムが起動しているプロバイダ業者のコンピューター
↓
IPルーター(IPは、インタネットプロトコル、規約の略で、ルーターとは、ネットワーク上のデータを他のネットワークに中継する器機。TCP/IPネットワークに使用するルーターのこと。)
↓
インターネット(通信プロトコルいわゆる標準的通信規約であるTCP/IPを用いて全体を管理するコンピューターがなくても無数のサーバコンピューターを接続することを可能にして全世界のネットワークを相互に接続した巨大なネットワークシステムをいいます。)
↓
一般視聴者のPC(インターネット閲覧者、Microsoft
Internet Explorer, Google chrome などのWEB閲覧ソフトを使用)
このように,掲示板の管理者も,WEBサーバーにアクセスして,記事の掲載や削除などの管理操作を行うことができますが,そもそも,一般にWEBサーバーのコンピューターを実際に運用しているのは,プロバイダ業者(いわゆるコンテンツプロバイダ)であり,これらの業者が自社のコンピューターを直接操作することにより,個別記事の送信を停止することが可能となっています。例外的に,掲示板の管理者がIPアドレスの割り当てを受けて直接WEBサーバーのコンピューターを自社内や自宅内で運用しているケースもありますが,そのような場合は,プロバイダ(いわゆる経由プロバイダ)が運用しているのはIPルーターだけであり,IPフィルタリングだけではドメインの全情報を差し止めることしかできませんので,個別URLの送信停止措置を求める事は技術的に困難と言わざるを得ません。(但し、近年IPルーターのうちの一部では、httpsやVPNなどの暗号化通信されていないものについて、IPパケット解析技術を用いたURLフィルター機能を有する機器が増えているようですので、将来的には経由プロバイダに対して送信停止措置請求を行うことも実現する可能性があります。)
(2) なお,プロバイダには,WEBサーバーの設置運営を請け負っているコンテンツプロバイダ業者の他、WEBサーバーを提供せずインターネットへの接続のみを提供している経由プロバイダがあります。勿論、WEBサーバーとインターネット接続の双方を提供しているプロバイダ業者もあります。
コンテンツ(送信される映像、音楽などの情報の総称)プロバイダとは、デジタル
(対立語はアナログ)化された情報を提供する事業者を意味し、情報を内蔵するhttpウェブサーバー(コンピューター)を管理し、インターネットへの接続を行います。英語で「CSP」
(Contents Service Provider)と言います。例えば、NTT,ニフティー等です。これに対して、経由プロバイダとは、インターネットへの接続のみを提供するプロバイダであり、インターネットサービスプロバイダ
(Internet Service Provider)、英語で「ISP」といい、例えば、光ファイバー、ADSL、モバイル通信等の回線を使いインターネットに接続する事業者をいいます。ただ、コンテンツプロバイダ業者でも、契約内容により経由プロバイダの業務しか行わない場合があります。
プロバイダ責任法の立法当時,同法2条3号の「特定電気通信役務提供者」の例として,コンテンツプロバイダや電子掲示板の管理者等が挙げられたものの,経由プロバイダもこれに該当するかについては,特段の議論はされなかったようです。この点について,最高裁は,近時,同法2条の文理や同法4条の趣旨(加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ること)等を根拠として,肯定する旨の判決を出しました(最判平22.4.8判決)。
最高裁平成22年4月8日判決を参照します。
「1 本件は,インターネット上の電子掲示板にされた匿名の書き込みによって権利を侵害されたとする被上告人らが,その書き込みをした者(以下『本件発信者』という。)に対する損害賠償請求権の行使のために,本件発信者にインターネット接続サービスを提供した上告人に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下『法』という。)4条1項に基づき,本件発信者の氏名,住所等の情報の開示を求める事案である。
原審は,上告人が法4条1項にいう『開示関係役務提供者』に該当すると判断した上,被上告人らの請求を一部認容すべきものとした。
2 所論は,上告人は,上記電子掲示板の不特定の閲覧者が受信する電気通信の送信自体には関与しておらず,上記電子掲示板に係る特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するための,本件発信者と当該特定電気通信設備を管理運営するコンテンツプロバイダとの間の1対1の通信を媒介する,いわゆる経由プロバイダ(以下,単に『経由プロバイダ』という。)にすぎないから,不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の始点に位置して送信を行う者を意味する『特定電気通信役務提供者』(法2条3号)に該当せず,したがって,法4条1項にいう『開示関係役務提供者』に該当しないというべきであり,このように解さないと,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限について規定する法3条や通信の検閲の禁止について規定する電気通信事業法3条等の趣旨にも反することになるというのである。
3 そこで検討するに,法2条は,『特定電気通信役務提供者』とは,特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し,その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいい(3号),『特定電気通信設備』とは,特定電気通信の用に供される電気通信設備をいい(2号),『特定電気通信』とは,不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信をいう(1号)旨規定する。上記の各規定の文理に照らすならば,最終的に不特定の者によって受信されることを目的とする情報の流通過程の一部を構成する電気通信を電気通信設備を用いて媒介する者は,同条3号にいう『特定電気通信役務提供者』に含まれると解するのが自然である。
また,法4条の趣旨は,特定電気通信(法2条1号)による情報の流通には,これにより他人の権利の侵害が容易に行われ,その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し,匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという,他の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ,特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバシー,表現の自由,通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより,加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解される。本件のようなインターネットを通じた情報の発信は,経由プロバイダを利用して行われるのが通常であること,経由プロバイダは,課金の都合上,発信者の住所,氏名等を把握していることが多いこと,反面,経由プロバイダ以外はこれを把握していないことが少なくないことは,いずれも公知であるところ,このような事情にかんがみると,電子掲示板への書き込みのように,最終的に不特定の者に受信されることを目的として特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するためにする発信者とコンテンツプロバイダとの間の通信を媒介する経由プロバイダが法2条3号にいう『特定電気通信役務提供者』に該当せず,したがって法4条1項にいう『開示関係役務提供者』に該当しないとすると,法4条の趣旨が没却されることになるというべきである。
そして,上記のような経由プロバイダが法2条3号にいう『特定電気通信役務提供者』に該当するとの解釈が,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限について定めた法3条や通信の検閲の禁止を定めた電気通信事業法3条等の規定の趣旨に反するものでないことは明らかである。
以上によれば,最終的に不特定の者に受信されることを目的として特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するためにする発信者とコンテンツプロバイダとの間の通信を媒介する経由プロバイダは,法2条3号にいう『特定電気通信役務提供者』に該当すると解するのが相当である。」
(3) プロバイダに対する送信防止措置については,プロバイダ責任法に基づいてガイドラインが定められていますので,適宜参照して検討なさると良いでしょう。
https://www.telesa.or.jp/ftp-content/consortium/provider/pdf/provider_mguideline_20180330.pdf
この法律では3条で,被害者からプロバイダに対して削除申出がされた場合,削除に応じた場合でも,@他人の権利が侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき,又は,A権利を侵害されたとする者から違法情報の削除の申出があったことを発信者に連絡し,7日以内に反論がない場合,には,発信者に対する法的責任を免除することが規定され,削除に応じなかった場合でも,@他人の権利が侵害されていることを知っていたとき,又は,A違法情報の存在を知っており,他人の権利が侵害されていることを知る事ができたと認めるに足りる相当の理由があるときでなければ,法的責任を負わない旨が規定されております。これは,プロバイダの法的責任を一部制限することにより,プロバイダが自由な判断でインターネットの権利侵害トラブルを解決できるようにするための環境を整備する趣旨です。
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任法)
第1条(趣旨)
この法律は,特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利につき定めるものとする。
第2条(定義)
この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。
一 特定電気通信 不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号において同じ。)の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く。)をいう。
二 特定電気通信設備 特定電気通信の用に供される電気通信設備(電気通信事業法第2条第2号に規定する電気通信設備をいう。)をいう。
三 特定電気通信役務提供者 特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し,その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう。
四 発信者 特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し,又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう。
第3条(損害賠償責任の制限)
特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは,当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は,これによって生じた損害については,権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって,次の各号のいずれかに該当するときでなければ,賠償の責めに任じない。ただし,当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は,この限りでない。
一 当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。
二 当該関係役務提供者が,当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって,当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。
2 特定電気通信役務提供者は,特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じた場合において,当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については,当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって,次の各号のいずれかに該当するときは,賠償の責めに任じない。
一 当該特定電気通信役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき。
二 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者から,当該権利を侵害したとする情報(以下「侵害情報」という。),侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由(以下この号において「侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し侵害情報の送信を防止する措置(以下この号において「送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があった場合に,当該特定電気通信役務提供者が,当該侵害情報の発信者に対し当該侵害情報等を示して当該送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において,当該発信者が当該照会を受けた日から7日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。
第4条(発信者情報の開示請求等)
特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は,次の各号のいずれにも該当するときに限り,当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し,当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名,住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
2 開示関係役務提供者は,前項の規定による開示の請求を受けたときは,当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き,開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
3 第1項の規定により発信者情報の開示を受けた者は,当該発信者情報をみだりに用いて,不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。
4 開示関係役務提供者は,第1項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については,故意又は重大な過失がある場合でなければ,賠償の責めに任じない。ただし,当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は,この限りでない。
5,法務局人権擁護課長に対する被害申告
基本的に,名誉毀損やプライバシー侵害の事例については,当事者同士や,当事者とプロバイダの折衝による自主的な解決が好ましいと言えますが,どうしても,当事者やプロバイダ間の交渉では解決できない場合もあります。そのような場合には,法務省の人権擁護局が後見的な立場で事件を調査し,削除を勧告する場合があります。
法務局が人権侵害事案に対応する場合の処理方法は,人権侵犯事件調査処理規程(平成16年法務省訓令第2号)に定められています。
http://www.moj.go.jp/content/000002021.pdf
これによれば,事件の管轄(申告先)は,人権侵犯の疑いのある事実の発生地又は人権を侵犯されたとされる者若しくは人権を侵犯したとされる者の居住地を管轄する法務局又は地方法務局において取り扱うこととされています。
人権侵犯の事件は,法務局に対して人権侵犯の申告を行う事により調査が開始され,必要に応じて,プロバイダ等に対して削除要請の連絡がなされる事になります。
第8条(救済手続の開始)法務局長又は地方法務局長は,被害者,その法定代理人又はその親族等の関係者から,人権侵犯により被害を受け,又は受けるおそれがある旨の申告があり,人権侵犯による被害の救済又は予防を図ることを求められたときは,申告のあった事件が,法務局又は地方法務局において取り扱うことが適当でないと認められる場合を除き,遅滞なく必要な調査を行い,適切な措置を講ずるものとする。
6,名誉毀損罪での刑事告訴
解決が困難な場合は,検察庁や警察署に対する刑事告訴を行う手段もあります。但し,インターネットの書き込みによる名誉毀損事案は,膨大な件数が存在するため,警察署においても,事実関係の特定が不十分な事案では,受理することに消極的な対応をされる可能性があります。プロバイダに対して発信者情報の開示請求を行うなど,十分な準備を行った上で手続することが必要でしょう。また,告訴状の記載も詳細かつ法令に則って行わなければなりませんので,弁護士に依頼して手続することをお勧めいたします。
判例上,インターネット上の名誉毀損行為で名誉毀損罪が成立した事例には次のようなものがあります。
判例1,最高裁平成22年3月15日判決,飲食店のフランチャイズを募集する被害会社名を記載し,この会社がカルト集団である旨や,会社説明会の広告に虚偽の記載をしている旨を自ら開設したインターネットホームページに公開し,不特定多数の閲覧に供した事例。
判例2,大阪高裁平成16年4月22日判決,インターネットの掲示板に,被害者の実名を記載し,「教育者であるのに校則を知らない」「うそをうそで塗り固める」という事実を記載し,不特定多数の閲覧に供した事例。
判例3,福岡地裁平成14年11月12日判決,自ら開設したインターネットホームページに,「Bは,数年前,自分の息子にテレクラをやらせ,男性関係で悩んでいる女性を探し出させて,弁護士としての自分のクライアントを獲得していたという。」などと記載した記事を,不特定多数の閲覧に供した事例。
7,裁判所に対する民事訴訟の提起
名誉毀損やプライバシー侵害があった事により,損害を受けた被害者は,民法709条及び同法710条に基づき,加害者に対して慰謝料などの損害賠償請求及び,インターネット記事の差止請求をすることができます。
但し,記事の差止め請求については,憲法21条で保障された表現の自由との衝突の問題を生じますので,裁判所も慎重に審理することになります。表現の自由を含む精神的自由は,表現行為を通じて言論を戦わせ,国民の民主的な意思決定にも影響しうる重要性を持つものですから,他の経済的自由よりも優越的地位にあると解釈されています。大阪高裁平成17年10月25日判決では次のように,判示しています。
「一般的に,表現行為によって,差止請求権を根拠付ける物権的な性質を有する人格権としての名誉,情報プライバシーが侵害されたとき又は侵害されるおそれがあるときに,表現行為の差止めが認められる場合があることは否定し得ない。しかし,表現の自由の重要性に鑑みると,表現行為の差止めが認められるためには,単に当該表現行為によって人格権が侵害されたというだけでは足りず,当該表現行為によって,被害者が,事後の金銭賠償によっては回復が不可能か,著しく困難になる程度の重大な損害を被るおそれのあることが必要というべきである。」
つまり,インターネット上の名誉毀損行為により,個人や法人の営業が壊滅的打撃を受けて倒産寸前の状態に至っているなどの事情が一般的には必要と解釈することができます。その他の社会生活上の不都合がある場合も,同様の重大性が要求されていると言えます。弁護士に相談して,差止請求が可能かどうか,よく検討すると良いでしょう。
8、 検索サイト運営会社に対する検索結果削除請求
どうしても、掲示板管理者に対する削除請求や、プロバイダに対する送信停止措置請求がうまく行かない場合は、検索サイト運営会社に対して、検索結果削除請求を行う手段も考えられます。これについては、複雑な問題がありますので、別稿で詳細に説明したいと思います。
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