児童福祉法による一時保護とその終了

行政|児童への虐待の恐れによる児童福祉法による一時保護|大阪地判平成23年8月25日判決|判例地方自治362号101頁|平成19年1月2日雇児発第0123003号厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知|子ども虐待対応の手引き(平成25年8月 改正版)

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考判例

質問:

私達夫婦には小学校5年生になる息子がいますが,本日,児童相談所から連絡があり,「お宅の息子さんを一時保護した」という連絡がありました。どうやら,息子にできたあざを見た学校が通報したことが原因のようです。

確かに,息子にできたあざは,しつけのために私が叩いてしまったからですが,叩いたのは数回だけですし,いまは本当に反省しております。妻や私の実家,妻の実家も協力してくれると言っています。

何とか息子を家に戻すことはできませんでしょうか。

回答:

お子様になされた措置は,小学5年生の身体のあざの発見による通告により(児童虐待防止不法2条、6条)児童福祉法に基づく「一時保護」といわれるもので(児童福祉法33条1項,同条2項),親権者である両親やお子様本人の意思に反して,児童相談所の所長の職権でできることになっています。

この一時保護は原則として2か月間と決まっていますが,延長が可能ですし,ケースによっては一時保護より重い施設の入所措置が取られる可能性もあります。

そのため,早期の帰宅を実現するためには,こちらからのアプローチが必要です。そして,一時保護の終了(解除)が認められ,より重い施設入所措置を採られないための考慮要素としては,一般的に,①お子様の意思,②虐待の再発の危険性の有無(今回の暴力の動機を明らかにすることが重要です。一般の親子関係と異なることが何もないことを積極的に説明する必要があり、暴力の前例があると保護の必要性が非常に大きくなります。当然のことですが暴力はいかなる理由があっても児童相談所は認めません。教育的体罰など問題外となります。),③再発を防ぐための周囲の環境の存在(社会資源の有無)を挙げることができます。

そのため,単に一時保護の終了を求めるだけではなく,具体的に「虐待」がなかったこと,虐待があったとしても今後生じないための対策を検討し,親族等の協力を得る等の環境調整をした上で,説得的な主張をしなければなりません。

本件では,暴力によるしつけ自体が問題であったことを自覚していること,一方で日常的な虐待があったわけではないこと,そのため今後の虐待もないこと,親戚の厳格な監督・協力が期待できることをまとめて主張していくことになります。親戚等の協力については,親戚から児童相談所に宛てた上申書等を作成することも有益です。

以上は,児童相談所との話し合いによって,児童相談所(所長)が自主的に一時保護を終了することを行うことを目指す方法ですが,自主的な終了が見込めない場合には,訴訟手続により一時保護決定処分の取り消しを求めることになります。訴訟においては一時保護決定についての処分権者(児童相談所所長)の広い裁量が認められると解されるため,暴力をふるった事実が存在しない等の特別な事情がない限り,判決によって取り消しが認められる可能性は高いとはいえません。教育の名の下に行われる暴力、体罰は刑法上の違法性阻却事由例えば正当防衛以外いかなる理由によっても(たとえ教育が目的でも)正当化されないからです。子供は聞き分けがないので、子供の将来を考えという理由で暴力(有形力の行為)を行うことは基本的に教育とは無関係な親権者の単なる違法行為という評価となります。法治国家では、自力救済は認められていません。従って、裁判所の救済はほぼ受けられないと思われます。例外的に、過失行為による暴力と認定されるような場合か、全体的に見て教育上軽微な有形力の行使と評価できるような場合だけでしょう。いずれの方法を選択するにしても,専門的な知識のある代理人にご相談することをお勧めいたします。

当事務所関連事例集1017番1016番参照。その他、一時保護に関する関連事例集参照。

解説:

1 一時保護について

(1)まず,今回の件が発覚したのは,学校からの児童相談所への通告(児童虐待の防止等に関する法律6条1項 、2条)によるものであると考えられます。

これを受けた児童相談所は,調査の上,今回,あなたのお子様に対して「一時保護」といわれる措置により,児童相談所において保護したことになります。この一時保護措置は,児童福祉法(以下「法」といいます。)33条1項,同条2項に規定があります。

(2)一時保護措置ですが,これは虐待等の恐れがある児童を,児童養護施設等に入所させる措置(法26条1項,法27条1項,同2項)等の適切な措置をとるまでの間,保護者から当該児童を引き離して保護するために緊急に行われる暫定的な措置となります。

一時保護は緊急かつ暫定的な措置ですから,通常の児童養護施設への入所措置の場合と異なり,児童本人やその保護者の同意がない場合でも,家庭裁判所の承認を経ず職権で保護が可能です。虐待は、無抵抗の児童の生来的天賦の人権(教育を受け成長する権利 憲法26条。児童福祉法1条乃至3条 、児童虐待防止法1条)を侵害するものであり、そのような恐れがある児童を一時的に保護するのは国家社会の義務と考えられます。本来、憲法上(憲法26条1項)親権者が教育の権限を持っているのですが、親権者自らがその権限を行使せず、濫用する危険がある以上、国家の財産でもある児童の人権を守るために事後的救済が意味をなさないことからその緊急性を重視し国家社会が一時的にその権限を代行することになります。従って両親の同意は不要ですし、裁判所の判断も不要として行政の裁量権を大きく認めています。

また,一時保護措置の期間も,上記一時保護措置の目的から2か月間を超えない期間(法33条3項)とされていますが,一方で必要があるときには延長が可能とされており(同条4項,親権者等の意思に反する延長について児童福祉審議会の意見聴取を要する点につき同条5項),実務上は多くのケースで延長がなされています。

(3)一時保護中に当該児童に対する措置が決定されることになりますが,措置としては,大きく分けて①在宅指導と②児童養護施設への入所や里親への委託等の措置があります。

この措置の判断にあたっては,児童相談所において,児童福祉司,児童心理司,医師等の専門家による様々な視点からの診断を行った上で,判定会議という会議を行が行われることになります。そして,その判定結果を元にしてどのような措置をとることにするか,という児童と保護者に対する援助指針が決定されることになります(判定結果を踏まえて援助方針を決定する会議を援助方針会議といいます)。

この援助方針において,児童養護施設の入所や里親への委託措置が決定された場合,保護者の同意が得られなくとも,当該児童相談所を所管する都道府県が家庭裁判所の承認を得た上で,強制的に当該措置をとることも可能です(法28条1項)。

2 一時保護措置の終了に向けた活動について

(1)以上から,児童養護施設への入所や里親への委託措置を回避し,一時保護を早急に終了し,お子様の身柄を取り戻すためには,児童相談所において援助方針が決定する前にしかるべき活動を行い,援助方針を在宅による指導に止める必要があります。

(2)そこで,具体的にするべき活動ですが,大きく分けて①環境の調整と②児童相談所との交渉ということになります。①環境の調整とは,問題点(児童相談所からみて問題だと思われる部分)の把握と解消であり,②児童相談所との交渉は,環境の調整の結果を分かりやすく主張することになります。以下,具体的に説明していきます。

(3)まず,環境の調整ですが,一時保護措置を終了して児童を家庭に復帰させるための考慮要素については,厚生省がガイドラインを示しているので参考となります(子ども虐待対応の手引きの改正について(平成19年1月2日雇児発第0123003号厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知、平成25年8月23日改正))。

※厚生労働省、子ども虐待対応の手引き(平成25年8月 改正版)

この通知によると,一時保護措置の終了及び在宅指導の決定は,「子どもの意思を尊重しつつ、虐待の再発の危険性が認められないことと、再発を防ぐ家族周辺の援助体制のネットワークが形成されているか否かにより判断」されることになります。

したがって,①当該児童が家に戻るという意思を持っている事,②虐待の再発の危険性がない事(前提として暴力、体罰の動機、原因を明らかにしその対策を具体的に示す必要があります。例えば、親子関係に特別な事情がないかどうか。出生から現在までの教育事情を明確にする。再婚、養子、兄弟関係等),③そのための周囲の環境・協力体制が整っている事が一時保護措置の終了に必要な要素となります。

(4)もっとも,一時保護措置を取られた場合,児童との面会も制限されますから,①当該児童の意思については,確認・調整の余地はあまりありません。そのため,②再発の危険性を除去し,③そのための周囲の環境・協力体制を構築することに注力することになります。

②再発の危険性の除去については,単に「もうしない」と言うだけでは足りず,行為に及んでしまった保護者自身が,行為が「虐待」と評価されることを自覚し,そういった行為に至る原因を発見した上で,その原因を除去することになります。何らかの外的な要因でストレスを抱えていて,そのストレスが行為に及んでしまった原因になっているのであれば,その発見と除去が必要となります。

具体例としては,定職についていなくて収入が安定していなかった場合には就職して安定した収入を得る,精神的な疾患が疑われる場合は精神科の診断を受けて治療を開始する等が考えられるところですが,再婚かどうか、出生に特別な事情がないか、前例がないか等いずれにしても一時保護前後で,目に見える形で改善の結果を示すことが重要です。

また,上記の診断の一環として,児童相談所から家庭訪問等が打診されることがありますから,予め整頓・掃除しておく等の対策も必要です。

③周囲の環境づくりとしては,近くの親族等に状況をしっかり説明して,協力の約束を得ることが必要です。その上で,具体的な協力の方法,すなわち監督の方法を話し合って決めることになります。

(5)続いて,児童相談所との交渉ですが,具体的には上記環境の調整によって改善された点等をまとめ,分かりやすく主張していくことになります。具体的には,行為に及んでしまった保護者の反省文の作成や,今後の虐待の再発を防ぐための具体的な約束を定めた誓約書の作成,病院での診断書や治療経過の取得,協力を得られる親族からの上申書の作成,それらをまとめた上で,一時保護措置の終了(ひいては在宅指導決定)の判断が相当であるとの意見書を作成する等が考えられるところですが,その方法自体は各ケースによって異なるため,一概には説明できません。

(6)以上が,一時保護解除に向けて行うべき活動になります。

一時保護措置という形で児童相談所が一旦介入した以上,「特段問題はなかったけれども,一時保護を解除して子どもを返してほしい」という希望が通ることはまずありません。一時保護措置がなぜなされてしまったのかという問題点を自覚し,その問題点を,児童相談所等の介入なしで改善していく方法を具体的に提案することが大切です。

そのための客観的資料として,上記反省文,誓約書,診断書等が有益です。

3 一時保護に対する訴訟での争い方について

(1)上記は,一時保護措置を前提としたうえで,そこから進んだ措置(施設入所措置等)の回避と,早期の一時保護措置解除を目的とする活動です。

つまり,これまでの対応は,一時保護措置が採られた場合に,当該措置自体は有効なものとした上で,①出来るだけ早い段階で一時保護措置を終了させ,②終了に伴い決定される「援助方針」(上記1・(3)参照)が,施設入所措置ではなく,在宅指導となることを目指すための対応,ということになります。

(2)かかる活動と異なり,そもそも一時保護措置自体の効力を争うことも可能です。

その場合,一時保護措置という処分の取り消しを求めて訴訟を提起することになります。

これは,一時保護措置が,児童福祉法33条に基づく児童相談所所長ないし自治体による処分,それも保護者や当該児童の意思に反して当該児童の身柄を保護する処分であるため,行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使」に該当し,したがって処分の取消しの訴え(行政事件訴訟法3条2項)の対象となるためです。

なお,一時保護措置の処分取り消しの訴訟をしている間は,原則として一時保護処分の効力が残っているため,当該児童が家に戻ることはありません(行政事件訴訟法25条1項)。そのため,処分取り消し訴訟をしている間,暫定的にも当該児童を家に戻すためには別途執行停止の申立てをすることになります(行政事件訴訟法25条2項)。この執行停止の申し立ては,「処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」(同条2項)を要件とし,かつ「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるとき」には認められません(同条4項)。本件において,「本案について理由がない」とは,一時保護措置が取り消される理由がないことを意味します。

(3)そこで,いかなる場合に一時保護措置が取り消されるのかが問題となりますが,下記参考裁判例は「条文の文言が「必要があると認めるときは」となっていること(法33条1項、2項)のほか、児童の福祉に関する判断には児童心理学等の専門的な知見が必要とされることに鑑みれば、当該児童が要保護児童等に当たると認められるか否か、要保護児童等に一時保護を加えるか否かなどの判断は、いずれも都道府県知事ないし児童相談所長の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。したがって、その裁量権の逸脱又は濫用が認められる場合に限って一時保護は違法となり、取り消されるべきものといえる。」と判断しています。

これは,判断権者である都道府県知事ないし児童相談所長に広い裁量(決定権限)を認めたものです。したがって,一時保護措置が違法であり,取り消されるという判断がなされるのは,一時保護の原因とされている事実が存在しなかった場合,すなわち事実誤認があった場合等の限られたケースである,と考えたほうが現実的です。

虐待の恐れの典型例は 暴力、体罰です。これを正当化する主張は刑法上の緊急行為、正当業務行為以外一切通りません。いかなる理由を挙げても暴力、体罰は法的に是認されません。法治国家にいては成人でも、自力救済はすべて禁止され暴力は緊急行為等違法性阻却事由以外全て犯罪であり刑事罰を受けることにあります。いわんや、抵抗力のない児童に体罰、暴力を行使することなど論外であり、児童の両親、社会国家から教育を受け人間として成長していく天賦の人権(憲法26条)を本来保護されるべき家庭内において侵害するようであれば、さらに違法性が強く責任非難が大きく、親権は一時的に停止し、国家社会がこれを代行することになります。そういう意味からも、「虐待の恐れ」「必要があると認めるとき」という判断については行政側の裁量権が大きいといえるでしょう。

(4)本件では,数回しか手をあげていない,ということですが,あざができている事実からすると一時保護処分が適法であったと判断される可能性は高いといえます。

したがって,本件では一時保護処分の適法性自体を争う,というよりも,やはり一時保護処分自体は受け入れた上で環境を改善し,早期解除を目指す方がより現実的であるといえます。

4 おわりに

上記の通り,一時保護処分はあくまでも暫定的な保護措置ですが,この段階で改善を示す事ができなければ,より強い保護処分(施設入所措置等)が取られることになります。

環境の改善自体はご自身の努力や親族間の協力が不可欠ですが,改善の方法や児童相談所への主張の方法等については法的な知識が必要です。弁護士等にご相談されることをお勧めします。

以上

関連事例集

Yahoo! JAPAN

※参照条文・判例

日本国憲法

第二十六条第一項 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

第二項 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

児童福祉法

第一章 総則

第一条 すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。

○2 すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。

第二条 国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。

第三条 前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。

第六節 要保護児童の保護措置等

第二十五条 要保護児童を発見した者は、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。ただし、罪を犯した満十四歳以上の児童については、この限りでない。この場合においては、これを家庭裁判所に通告しなければならない。

第二十六条

児童相談所長は、第二十五条の規定による通告を受けた児童、第二十五条の七第一項第一号若しくは第二項第一号、前条第一号又は少年法 (昭和二十三年法律第百六十八号)第六条の六第一項 若しくは第十八条第一項 の規定による送致を受けた児童及び相談に応じた児童、その保護者又は妊産婦について、必要があると認めたときは、次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。

一 次条の措置を要すると認める者は、これを都道府県知事に報告すること。

二 児童又はその保護者を児童福祉司若しくは児童委員に指導させ、又は都道府県以外の者の設置する児童家庭支援センター若しくは都道府県以外の障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第五条第十六項 に規定する一般相談支援事業又は特定相談支援事業(次条第一項第二号及び第三十四条の七において「障害者等相談支援事業」という。)を行う者その他当該指導を適切に行うことができる者として厚生労働省令で定めるものに指導を委託すること。

三 第二十五条の七第一項第二号又は前条第二号の措置が適当であると認める者は、これを福祉事務所に送致すること。

四 保育の実施等が適当であると認める者は、これをそれぞれその保育の実施等に係る都道府県又は市町村の長に報告し、又は通知すること。

五 児童自立生活援助の実施が適当であると認める児童は、これをその実施に係る都道府県知事に報告すること。

六 第二十一条の六の規定による措置が適当であると認める者は、これをその措置に係る市町村の長に報告し、又は通知すること。

七 子育て短期支援事業又は養育支援訪問事業の実施が適当であると認める者は、これをその事業の実施に係る市町村の長に通知すること。

2 前項第一号の規定による報告書には、児童の住所、氏名、年齢、履歴、性行、健康状態及び家庭環境、同号に規定する措置についての当該児童及びその保護者の意向その他児童の福祉増進に関し、参考となる事項を記載しなければならない。

第二十七条

都道府県は、前条第一項第一号の規定による報告又は少年法第十八条第二項 の規定による送致のあつた児童につき、次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。

一 児童又はその保護者に訓戒を加え、又は誓約書を提出させること。

二 児童又はその保護者を児童福祉司、知的障害者福祉司、社会福祉主事、児童委員若しくは当該都道府県の設置する児童家庭支援センター若しくは当該都道府県が行う障害者等相談支援事業に係る職員に指導させ、又は当該都道府県以外の者の設置する児童家庭支援センター、当該都道府県以外の障害者等相談支援事業を行う者若しくは前条第一項第二号に規定する厚生労働省令で定める者に指導を委託すること。

三 児童を小規模住居型児童養育事業を行う者若しくは里親に委託し、又は乳児院、児童養護施設、障害児入所施設、情緒障害児短期治療施設若しくは児童自立支援施設に入所させること。

四 家庭裁判所の審判に付することが適当であると認める児童は、これを家庭裁判所に送致すること。

2 都道府県は、肢体不自由のある児童又は重症心身障害児については、前項第三号の措置に代えて、指定医療機関に対し、これらの児童を入院させて障害児入所施設(第四十二条第二号に規定する医療型障害児入所施設に限る。)におけると同様な治療等を行うことを委託することができる。

3 都道府県知事は、少年法第十八条第二項 の規定による送致のあつた児童につき、第一項の措置を採るにあたつては、家庭裁判所の決定による指示に従わなければならない。

4 第一項第三号又は第二項の措置は、児童に親権を行う者(第四十七条第一項の規定により親権を行う児童福祉施設の長を除く。以下同じ。)又は未成年後見人があるときは、前項の場合を除いては、その親権を行う者又は未成年後見人の意に反して、これを採ることができない。

5 都道府県知事は、第一項第二号若しくは第三号若しくは第二項の措置を解除し、停止し、又は他の措置に変更する場合には、児童相談所長の意見を聴かなければならない。

6 都道府県知事は、政令の定めるところにより、第一項第一号から第三号までの措置(第三項の規定により採るもの及び第二十八条第一項第一号又は第二号ただし書の規定により採るものを除く。)若しくは第二項の措置を採る場合又は第一項第二号若しくは第三号若しくは第二項の措置を解除し、停止し、若しくは他の措置に変更する場合には、都道府県児童福祉審議会の意見を聴かなければならない。

第二十八条

保護者が、その児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合において、第二十七条第一項第三号の措置を採ることが児童の親権を行う者又は未成年後見人の意に反するときは、都道府県は、次の各号の措置を採ることができる。

一 保護者が親権を行う者又は未成年後見人であるときは、家庭裁判所の承認を得て、第二十七条第一項第三号の措置を採ること。

二 保護者が親権を行う者又は未成年後見人でないときは、その児童を親権を行う者又は未成年後見人に引き渡すこと。ただし、その児童を親権を行う者又は未成年後見人に引き渡すことが児童の福祉のため不適当であると認めるときは、家庭裁判所の承認を得て、第二十七条第一項第三号の措置を採ること。

2 前項第一号及び第二号ただし書の規定による措置の期間は、当該措置を開始した日から二年を超えてはならない。ただし、当該措置に係る保護者に対する指導措置(第二十七条第一項第二号の措置をいう。以下この条において同じ。)の効果等に照らし、当該措置を継続しなければ保護者がその児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他著しく当該児童の福祉を害するおそれがあると認めるときは、都道府県は、家庭裁判所の承認を得て、当該期間を更新することができる。

3 都道府県は、前項ただし書の規定による更新に係る承認の申立てをした場合において、やむを得ない事情があるときは、当該措置の期間が満了した後も、当該申立てに対する審判が確定するまでの間、引き続き当該措置を採ることができる。ただし、当該申立てを却下する審判があつた場合は、当該審判の結果を考慮してもなお当該措置を採る必要があると認めるときに限る。

4 家庭裁判所は、第一項第一号及び第二号ただし書並びに第二項ただし書の承認(次項において「措置に関する承認」という。)の申立てがあつた場合は、都道府県に対し、期限を定めて、当該申立てに係る保護者に対する指導措置に関し報告及び意見を求め、又は当該申立てに係る児童及びその保護者に関する必要な資料の提出を求めることができる。

5 家庭裁判所は、措置に関する承認の審判をする場合において、当該措置の終了後の家庭その他の環境の調整を行うため当該保護者に対し指導措置を採ることが相当であると認めるときは、当該保護者に対し、指導措置を採るべき旨を都道府県に勧告することができる。

第三十三条

児童相談所長は、必要があると認めるときは、第二十六条第一項の措置をとるに至るまで、児童に一時保護を加え、又は適当な者に委託して、一時保護を加えさせることができる。

2 都道府県知事は、必要があると認めるときは、第二十七条第一項又は第二項の措置をとるに至るまで、児童相談所長をして、児童に一時保護を加えさせ、又は適当な者に、一時保護を加えることを委託させることができる。

3 前二項の規定による一時保護の期間は、当該一時保護を開始した日から二月を超えてはならない。

4 前項の規定にかかわらず、児童相談所長又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、引き続き第一項又は第二項の規定による一時保護を行うことができる。

5 前項の規定により引き続き一時保護を行うことが当該児童の親権を行う者又は未成年後見人の意に反する場合においては、児童相談所長又は都道府県知事が引き続き一時保護を行おうとするとき、及び引き続き一時保護を行つた後二月を経過するごとに、都道府県知事は、都道府県児童福祉審議会の意見を聴かなければならない。ただし、当該児童に係る第二十八条第一項第一号若しくは第二号ただし書の承認の申立て又は当該児童の親権者に係る第三十三条の七の規定による親権喪失若しくは親権停止の審判の請求がされている場合は、この限りでない。

児童虐待の防止等に関する法律

(目的)

第一条 この法律は、児童虐待が児童の人権を著しく侵害し、その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えるとともに、我が国における将来の世代の育成にも懸念を及ぼすことにかんがみ、児童に対する虐待の禁止、児童虐待の予防及び早期発見その他の児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務、児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援のための措置等を定めることにより、児童虐待の防止等に関する施策を促進し、もって児童の権利利益の擁護に資することを目的とする。

(児童虐待の定義)

第二条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。

一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。

二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。

三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。

四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

(児童に対する虐待の禁止)

第三条 何人も、児童に対し、虐待をしてはならない。

(児童虐待に係る通告)

第六条 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。

2 前項の規定による通告は、児童福祉法 (昭和二十二年法律第百六十四号)第二十五条 の規定による通告とみなして、同法 の規定を適用する。

3 刑法 (明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。

【参考裁判例】

大阪地判平成23年8月25日判決 判例地方自治362号101頁

「第3 当裁判所の判断

1 争点(本件一時保護決定の適法性)について

(1)法33条1項、2項に規定する一時保護は、要保護児童ないし児童虐待を受けたと思われる児童(以下「要保護児童等」という。)について法26条1項又は27条1項若しくは2項の措置をとる必要がある場合に、その措置をとるまでの間、暫定的に当該児童を保護するために行われる行政処分である(児童虐待の防止等に関する法律6条1項、2項、法25条参照)。法27条1項又は2項の措置と異なり、親権者の同意がなくても行うことができ、当該児童の行動の自由を制限し又はその自由を奪うような強制的措置をとることも許される(法27条の3参照)。これは、一時保護が暫定的な処分であることに加え、緊急を要する場合が多いことに基づくものと解される。暫定的な処分であることから、一時保護の期間は2月を超えてはならないと定められているが(法33条3項)、必要があれば引き続き一時保護を行うことができる(同条4項)。

条文の文言が「必要があると認めるときは」となっていること(法33条1項、2項)のほか、児童の福祉に関する判断には児童心理学等の専門的な知見が必要とされることに鑑みれば、当該児童が要保護児童等に当たると認められるか否か、要保護児童等に一時保護を加えるか否かなどの判断は、いずれも都道府県知事ないし児童相談所長の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。したがって、その裁量権の逸脱又は濫用が認められる場合に限って一時保護は違法となり、取り消されるべきものといえる。

(2)児童虐待の疑いの有無について

ア 前提事実のほか各項記載の証拠によれば以下の事実が認められる(なお、これらの事実は、いずれも本件一時保護決定時までに処分行政庁が何らかの形で把握していたものである。)。

(ア)原告X1は、平成23年1月29日、頸部及び頭部を刃物で切られるという傷害を負った。頸部の傷は頸静脈に達し、もう少し傷が深ければ死亡していた可能性が高いような状態であった。それにもかかわらず、原告X1には抵抗した形跡がなかった。(乙17)

(イ)原告X1は、同日、総合医療センターに救急搬送後、全身麻酔下で緊急手術を受けたが意識がなかなか戻らないことから、アネキセート(ベンゾジアゼピン系薬剤による鎮静の解除に用いられる。)の投与を受けたところ、一時的に意識が回復した。しかし、翌30日になっても原告X1はふらつくなどの意識障害があったことから、同センター医師は原告X1の尿中薬物検査を実施したところ、原告X1の尿からベンゾジアゼピンの成分が検出された。(甲4、5の1、乙17、19、25、証人A)

(ウ)総合医療センターのB看護師は、同30日に、原告X1から、原告X2に薬を飲まされたと告げられた。B看護師は、このことをC医師に報告した。(乙18、証人B)

(エ)総合医療センターの担当者は、同年2月3日、こども相談センターの職員に対し、原告X1が睡眠薬を飲まされたという児童虐待を受けた疑いがある旨を通報した。そして、総合医療センターの担当者は、同月7日、こども相談センターの職員に対し、B看護師が原告X1から麻酔覚醒後に母親から薬を飲まされたと聞いた旨を説明した。(乙17、証人A)

(オ)ベンゾジアゼピンは市販薬(市販の風邪薬を含む。)には含まれておらず、医師の処方がないと入手できないもので、医師が処方する睡眠薬として用いられている。原告X1が通院していたD病院や総合医療センターで原告X1にベンゾジアゼピン系薬剤が処方されたことはない。(甲4、5の1、26、乙17、19。原告らは、風邪薬にも含まれる旨主張するが、具体的な薬剤名等の指摘もなく、この主張を入れる余地はない。)

イ アのとおり事実認定をした理由について補足説明を加える。

(ア)B看護師は、原告X1が母親(原告X2)から薬を飲まされた旨を発言した状況等について、平成23年1月30日午後1時過ぎ頃、原告X1が病室で多少ふらつきながら車いすから立ち上がろうとしたことや、退屈そうにしていたことから、気晴らしをさせてあげたいと考え、研修資料をコピーする用事があったこともあり、原告X1を病室から車いすで連れ出し、救急事務室に行った、同室で原告X1と言葉を交わしながらコピーをしていたところ、原告X1から「頭がぼうっとする」との話があり、さらに、「お薬飲んだからかなあ」あるいは「お薬飲まされたからかなあ」との発言があった、これに対し、B看護師が「D病院のお薬、飲んでなかったんじゃないの」と尋ねたところ、原告X1は、「それは飲んでないけど、昨日、ママに、お薬2錠飲まされた。」と言った、B看護師が驚いて「X1ちゃんは、お母さんが渡してくれたお薬を2錠飲んだの」と問い返すと、原告X1は、「ママに言われて10錠位飲んだ」と言った、B看護師は、それ以上積極的に質問をするのは良くないと考え、「そっかあ」と言って話を切り上げたと供述しており(乙18、証人B)、その内容は非常に詳細かつ具体的である。

また、このようなB看護師の供述は、B看護師の氏名は忘れているものの、B看護師とほぼ見合う年齢の看護師と1周くらい1階を回ったことがあるとする原告X1の供述とも合致している。

原告らはB看護師の供述の信用性を問題とするところ、まず、B看護師にとって、原告X1は救急搬送された患者にすぎないから、原告X1から全く聞いてもいないことをねつ造して、医師に報告するような動機があるとはうかがえない。

次に、原告らは、総合医療センターの医療安全管理部調整担当課長のEからの聴取り(甲34)を基に、外来担当看護師が重傷入院患者を病室以外に連れ出すことはあり得ない、救急事務室に二人きりでいるとは考えられないなどと指摘する。しかしながら、上記聴取りの内容は非常に抽象的なものであって、これをもって、上記B看護師の行動が虚構のものということはできない。

さらに、原告らは、看護記録に原告X1が母親から薬を飲まされたことを聞いた旨の記載がない点を指摘するが、総合医療センターでは病棟担当看護師が看護記録に記載する慣行があったところ、B看護師は担当のC医師に対し原告X1の発言を詳細に報告したため、病棟担当看護師であるF看護師に対し、原告X1の発言を記録するよう指示することを失念していたと説明しており(乙18、証人B)、この説明は相応の合理性を有するものといえる。

(イ)原告X1は、本人尋問において、眠たくなる薬を飲んだとか飲まされたことは知らない、看護師に眠たくなる薬を飲んだことを言った覚えがないし、言っていないと思う旨供述している。しかしながら、原告X1の尿からベンゾジアゼピンの成分が検出されたことは動かし難い事実であることからすると、原告X1はこれらの点についてあえて知らないと回答を避けた可能性を否定することはできず、また、上記のような看護師とのやりとりが原告X1にとって特に記憶に残る印象的な出来事ではなかったともいえることからすると、原告X1がこのことを覚えていないことも十分に考えられるところである。したがって、原告X1の上記供述から直ちにB看護師の供述内容を否定することはできない。

(ウ)以上からすれば、原告X1から母親(原告X2)に薬を飲まされた旨聞いたとするB看護師の上記供述は信用できるものといえる。

ウ 上記アの事実によれば、原告X2が原告X1に対し、睡眠薬を飲ませたのではないかと疑うに足る合理的な理由がある。なお、医療機関は原告X1に対しベンゾジアゼピン系薬剤を投与しておらず、当時小学3年生であった原告X1が同薬剤を自ら入手して服用するとは極めて考え難く、また、原告X1と面識を有しない全くの第三者が原告X1に対して同薬剤を飲ませたこともうかがえない(A女の点は原告X2の憶測の域を出ないことは下記のとおりである。)から、B看護師の供述を除いても、原告X2が原告X1に対して睡眠薬を飲ませたのではないかと疑うに足りる合理的な理由があるというべきである。

この点、原告らは、原告らの隣人であったA女が原告X1に睡眠薬を飲ませ、刃物で切りつけた犯人である可能性を指摘する。しかし、その根拠はA女が精神的な病にかかっており、Gと同居しながら生活保護を受給している原告X2を疎ましく思っているというに過ぎず、原告X2による憶測の域を出ないものというほかない。

エ そして、児童である原告X1に睡眠薬を飲ませることが児童虐待に当たることはいうまでもないところ、睡眠薬を飲ませるという虐待の態様は、その分量等によっては生命や身体への重大な侵害の危険を有するものである。また、原告X2が原告X1に睡眠薬を飲ませたとすれば、原告X2が原告X1に対してさらなる虐待を加える可能性は否定できない。これらの事情を踏まえると、原告X1が虐待を受けた要保護児童等に当たり、一時保護が必要であるとした処分行政庁の判断に裁量の逸脱があるとはいえない。

(3)手続の違法性について

原告らは、処分行政庁が、原告X1のカルテを確認し、B看護師からの聴取りを行うなど十分な裏付けをとることもなく、専ら捜査への協力のために本件一時保護決定をしたとして、本件一時保護決定が裁量権の濫用に当たる旨を主張している。しかしながら、一時保護決定は暫定的性質を有し、また、緊急を要する場合も多いことからすると、上記(2)ア記載のような状況を把握した処分行政庁がした本件一時保護決定について、処分行政庁が本件一時保護決定前に志賀看護師から直接聴取りを行っていないことをもって、十分な裏付けを欠いたままされたものということはできないし、また、一時保護決定が当然に法26条や27条などの後続手続を予定していることからすると,一時保護決定後に、法11条1項2号ハ、12条2項に基づく調査をするなどして後続手続に必要な資料を収集し、関係者への事情聴取をしたとしても違法とはいえず、そのことをもって本件一時保護決定が捜査への協力目的であると推認することはできない。

また、こども相談センターの職員が、平成23年2月2日、総合医療センターの職員に対し、原告X1の一時保護は難しいという見解を述べていたとしても、その見解はあくまでもその時点で判明していた情報に基づくものであって、その後、原告X1が母親(原告X2)から睡眠薬を飲まされた旨看護師に話しているとの情報を得てその見解を変更したとしても、そのことから処分行政庁が専ら警察の捜査に協力する目的で、原告X1の一時保護をしたと推測することはできない。

そして、原告X1が首や顔を切られるという犯罪の被害に遭ったことに鑑みると、処分行政庁が一定の捜査協力をすること自体はやむを得ないものというべきであるから、警察官が原告X1に対し平成23年2月15日から4日連続で約2時間の取調べを行い、処分行政庁がかかる取調べを容認したとしても、そのことから、本件一時保護決定が専ら警察の捜査に協力する目的であったとはいうこともできない。

以上から、本件一時保護決定の手続に違法があるとはいえず、処分行政庁がその裁量権を濫用したとは認められない。

(4)小括

したがって、本件一時保護決定は適法である。

2 よって、原告らの請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条1項ただし書を適用して(要保護児童等に当たると考えられる原告X1に、その親権者である原告X2によって提起された本訴の訴訟費用を負担させるのは相当ではない。)、主文のとおり判決する。」